『合流、エルシャンク』-1

作者・ユガミ博士

102

地球へと向かったコズモレンジャーJ9達と別れ、エイジの言っていた
レジスタンスに合流しようと外宇宙を旅するダバ達ターナ一行だった。

キャオ「おっ?ダバ、この先で戦闘が行われているらしいぜ」
ダバ「戦闘?行ってみよう」

この近くの宙域で戦闘が行われている事を察知したキャオがダバに
報告すると、ダバはその戦闘宙域へ行くように指示を出す。
戦闘が行われている宙域にやってくると、戦闘を行っているのは
ロミナ姫達の乗るラドリオ星の戦艦エルシャンクとターサン博士によって
兵器として改造された弾劾チームだった。彼らが戦闘している相手は
現在、Gショッカー地下帝国軍に所属するベガ星連合軍だった。

ダバ「あれは、エルシャンクに弾劾チームか!」
レッシィ「相手は、ベガ星連合軍の連中ね」
アム「どうする、ダバ?」
ダバ「勿論、彼らを助けるさ。皆、出撃だ!」

ダバの指示でエルシャクと弾劾チームを助けるべく、ターナから
エルガイムMk-Ⅱを始めとするHM(ヘビーメタル)が出撃する。
一方、エルシャクから出撃したジョウ・マヤの乗る飛影、レニー・アイの
乗る風雷鷹、マイク・コイルの乗る爆竜、弾劾チームの乗るダンメカニックは
ベガ星連合軍が繰り出すミニフォーやミディフォーと戦闘していた。

ズリル長官「ふん、Gショッカーの宇宙での戦闘がゴズマ軍だけのものでは
  ない事を見せてやる」

戦闘母艦からベガ星連合軍の天才科学者であるズリル長官が戦力を動かす。
Gショッカーの中で宇宙での戦闘は何かと、ゴズマ軍が活躍をしているのが
内心気に食わない彼は、ベガ星連合の力を見せようと躍起になっていた。

ランバ「あ~ん、敵が多すぎるよ!!」
パイ「泣き言いってんじゃないよ!」

数の多いミニフォーやミディフォーに対して、弾劾チームはダンメカニックの
状態で撃墜させていくが、弾劾チームの一人であるランバ・ノムは泣きそうになり
パイ・サンダーが黙らせた。

レニー「見て、ジョウ!あの戦艦はターナよ!」
ジョウ「ダバか!?」
ロール「ペンタゴナワールドも、Gショッカーの脅威に晒されていると聞いていたが
    助けに来てくれるなんて心強い」

そこへターナから出撃したダバ達がエルシャンクと弾劾チームに合流する。

ダバ「俺達が、援軍に入ります」
ロミナ姫「ありがとうございます。ダバ・マイロード」
ガメラン「ありがたい援軍だ」
イルボラ「この機に乗じて、戦況を覆すぞ!」

ダバ達が援軍に駆け付けた事にエルシャンクのブリッジからロミナ姫は
感謝を述べる。同じくブリッジから戦闘の指揮を執るイルボラ・サロや
ガメランはこのまま流れを変えようと、エルシャンクから機銃を撃っていく。
ダバ達が合流した事で、出撃したミニフォーやミディフォーは瞬く間に数を減らした。

ズリル長官「このまま、終わらせんぞ。円盤獣、ベガ獣を出撃させろ!」

戦況がよろしくない状況となったので、ズリル長官は戦艦から円盤獣
ギルギルやベガ獣ズメズメを出撃させる。

ロール「円盤獣やベガ獣を出撃させたか」
ミア「それなら・・・クロス・ファイト!ダン・ガイ・オー!!」

出撃した円盤獣とベガ獣に対してリーダーであるミア・アリスの掛け声の下、
4機のダンメカニックは頭部、胸・腹部、両腕部、脚部へと変形していき
合体する。

ロール「ダンガイオー見参!!」

普段の弱気な性格とは打って変わって、熱い叫びでダンガイオーの合体は
完了した。

103 
ジョウ「俺は、ベガ獣をやる。そっちは任せた!」
ロール「了解した!」

合体したダンガイオーに円盤獣ギルギルを任せ、ジョウの乗る飛影は
ベガ獣ズメズメと戦闘を開始する。

ギルギル「ギュォォォン」
ロール「ブーストナックル!」
ランバ「いやぁぁぁあ!!」

ロールはギルギルに向けて、腕を飛ばすブーストナックルを放つ。
ランバが乗ったままなので、中に乗るランバは悲鳴を上げるのであった。

ジョウ「サンダーボウガン!」
ズメズメ「キシャァァァ!!」
マイク「兄貴、援護するぜ」
レニー「私も!ベガ獣はお断りよ!」

ジョウは飛影の武器であるサンダーボウガンをベガ獣ズメズメに向けて攻撃
するが、お返しとばかりにズメズメは冷凍光線を放つ。そこへマイクの乗る
爆竜は肩に搭載されている2門のショルダーキャノンで援護攻撃し、続いて
レニーの乗る風雷鷹は双槍を合体させて巨大な十字手裏剣を作り出して攻撃した。

リリス「ダバ、私達も援護しましょう!」
ダバ「分かっている。バスターランチャーだ!」

さらにダバはダンガイオーや飛影を援護しようと、円盤獣やベガ獣に
エルガイムMk-Ⅱのバスターランチャーで攻撃を行う。

ベガ兵「ズリル長官、このままでは我々に不利です!」
ズリル長官「おのれ・・・小癪な!」
???@通信『困っているみたいだなぁ。俺が手を貸してやるぜ!!』

戦況が不利になっていく事に苛立ちをみせるズリル長官に、何者かから
通信が入る。

レッシィ「何かくるわ!」

ビュシューン

突如、遠方から謎のビームが一同を襲う。そこに現れたのはマシン帝国の
戦艦バラクティカだった。だがそこに乗るのは、カイザーブルドントでは
なかった。

ボンバー・ザ・グレート「熱いぜ。燃えるぜ。火が点くぜ。爆発だー!!」

かつて皇帝バッカスフンドに逆らい、当時皇子ブルドントだったカイザー
ブルドントを追放して皇帝の座を奪ったマシン獣、ボンバー・ザ・グレートだった。
黄泉還った現在は、宇宙を中心に活動をしていたのである。ボンバー・ザ・グレート
はバラクティカから大量のタコンパスを出撃させ、エルシャンク、弾劾チーム、
ダバ達はその物量に、不利になるのであった。

○ダバ・マイロード→エルガイムMK-Ⅱを出撃させ、エルシャンクを助ける。
○ミラウー・キャオ→戦闘が行われている事をダバに知らせる。
○ファンネリア・アム→出撃する。
○ガウ・ハ・レッシィ→出撃する。
○ジョウ・マヤ→エルシャンクを守るべく飛影で戦う。
○レニー・アイ→エルシャンクを守るべく風雷鷹で戦う。
○マイク・コイル→エルシャンクを守るべく、爆竜で戦う。
○ロミナ姫→助けに来たダバに感謝を述べる。
○イルボラ・サロ→エルシャンクから戦闘指揮をする。
○ガメラン→エルシャンクから戦闘指揮をする。
○ミア・アリス→ダンメカニックをダンガイオーに合体させる。
○ロール・クラン→ダンガイオーに合体した後、円盤獣ギルギルと戦う。
○ランバ・ノム→ブーストナックルで悲鳴をあげる。
○パイ・サンダー→ダンメカニックでミニフォーを撃墜していく。
●ズリル長官→エルシャンクと弾劾チームを攻撃する。
●円盤獣ギルギル→ダンガイオーと戦う。
●ベガ獣ズメズメ→飛影や風雷鷹、爆竜と戦う。
●ボンバー・ザ・グレート→エルシャンクとベガ星連合軍の戦いに現れてエルシャンクに攻撃する。

104

【今回の新登場】
○ジョウ・マヤ(忍者戦士飛影)
火星開拓民の少年で、幼少の頃に父と共に日本から火星に移住した。
典型的な熱血タイプで口が悪く短気だが、本質的に義侠心と友情に厚い。
火星に現れたエルシャンクに首を突っ込み、黒獅子のパイロットとして
選ばれ、中盤から飛影に乗り込みザブーム軍と戦った。

○レニー・アイ(忍者戦士飛影)
ジョウの1歳年上の幼馴染で、気の強いお転婆娘。風雷鷹のパイロットに
選ばれる。ジョウに恋心を抱いており、ロミナ姫とは恋のライバル関係にある。

○マイク・コイル(忍者戦士飛影)
ジョウの親友で、兄貴分として慕っている。消極的な性格でしばしば空気を
読まずに喋ったり、強がってトラブルを招いたりする。爆竜のパイロット
に選ばれ、ロミナの側近であるシャフに好意を持つようになる。

○ロミナ・ラドリオ(忍者戦士飛影)
シューマ星系ラドリオ星の王女。アネックスの野望を阻むべく、伝説の忍者を
探しに地球圏を訪れる。おっとりとした、淑やかな性格だが、天然ともいえる
素直さで行動に躊躇いがなく、また敵に屈しない気丈さを持ち合わせている。
エルシャンクの指導者として家臣からの信頼も厚い。ジョウに好意を抱いている。

○イルボラ・サロ(忍者戦士飛影)
ロミナ姫の家臣で、エルシャンクの指揮官としてロミナ姫に同行。その高い忠誠心
からジョウ達地球人を信用せず対立。やがて心の隙を突かれてザブーム軍に
寝返り、零影に搭乗して敵として現れるが、最終的にジョウと共にハザードを誅殺した。

○ガメラン(忍者戦士飛影)
エルシャンクの副官。イルボラが離反した後は指揮官となる。イルボラを
崇拝しており、出奔した後も彼の下で働きたかったが、聞き入れてもらえなかった。
粗野で気が短いため、ジョウとよく対立する。

○ミア・アリス(破邪大星ダンガイオー)
弾劾チームのリーダー。ダンガイオーの合体のキーであり、チームの中でも
最大の超能力を持ち合わしているが、制御しきれていない。

○ロール・クラン(破邪大星ダンガイオー)
弾劾チームの黒一点で、合体したダンガイオーのメインパイロット。
走る事でエネルギーを発する超能力を有している。普段は気弱だが
合体すると強気で頼りになる性格となる。元々は惑星ラテシアの
レジスタンスの英雄だったが、仲間の裏切りで殺害されターサン博士に
サイキッカーとして蘇生した。

○ランバ・ノム(破邪大星ダンガイオー)
弾劾チームの最年少。指からレーザー光線を発射する超能力を有している。
明るいムードメーカーな性格だが、実は惑星リリスの王女だった。

○パイ・サンダー(破邪大星ダンガイオー)
常識外れな怪力を発揮する超能力を持つ弾劾チームの一人。乱暴な物言いと
アグレッシブで強引な性格をした姉御肌な女性。実はガリモス大船長の娘で
本名はバリアス。

●ズリル長官(UFOロボ グレンダイザー)
ベガ星連合軍の天才科学者。ガンダル司令とは犬猿の仲だが、場合によっては
強力する事もある。

●円盤獣ギルギル(UFOロボ グレンダイザー)
地球攻撃戦に対して、最初に投入された円盤獣。円盤が上下に開かれ、
中から頭と4本の足と尻尾が現れる。

●ベガ獣ズメズメ(UFOロボ グレンダイザー)
天才少女キリカが開発した冷凍光線銃を装備したベガ獣。本来、冷凍光線は
誕生したばかりの灼熱の星を冷やして人が住める環境にするために開発されたが
兵器に転用される。単眼と腕の鎌が特徴。

●ボンバー・ザ・グレート(超力戦隊オーレンジャー)
かつて皇帝バッカスフンドに反旗を翻して、宇宙へ追放された「宇宙の一匹狼」
バッカスフンドが倒された事を聞きつけて、皇子ブルドントを決闘の末、
ヒステリア共々追放した後、皇帝の座につく。しかし後にカイザーブルドント
として成長した彼によって爆弾兵士に改造されてしまった。


『合流、エルシャンク』-2

作者・ユガミ博士

105

バラノイアのボンバー・ザ・グレートが乗るバラクティカから大量の
戦闘機タコンパスが出撃し、その物量に苦戦を強いられるエルシャンク
や弾劾チーム、ダバ一行。

キャオ「ああ、これじゃジリ貧だ!」
ボンバー「まだまだ、これだけじゃあねえぞ!」

さらにボンバー・ザ・グレートはバラクティカから、量産したバラソーサーや
バラミサイラー等を投入する。投入されたマシン獣の攻撃はターナや
エルシャンクに直撃した。

シャフ「きゃあ!」
イルボラ「くっ。零影さえ出撃出来れば...」

エルシャンクの艦橋では、ミサイルの直撃による揺れにロミナ姫の
侍女であるシャフは思わず悲鳴をあげてしまう。イルボラもこれまで
の戦闘で修理をせざるをえなかった零影が出撃出来ない事に歯痒い
思いをする。

ロミナ姫「狼狽えては、いけません。こちらも応戦するのです」
ガメラン「分かりました、姫様。こちらもフォトン砲を準備だ!」

だが、ロミナ姫はそれに臆する事も無く、イルボラ達を鼓舞する。
ロミナ姫からの命令にガメランはエルシャンクの主砲であるフォトン砲
の準備を進める。折鶴の様な形をしたエルシャンクの嘴の部分から、
フォトン砲が撃ちだされるが、マシン獣軍団にはあまり効果は無いようだった。

ボンバー「は~は~はっは。そんな攻撃が効くか!」
ズリル長官「この期を逃すな。エルシャンクをここで、沈ませろ!」

形成は逆転したとばかりに、ボンバー・ザ・グレートやズリル長官は
マシン獣や円盤獣、ベガ獣を使って激しい攻撃を仕掛けてくる。

ジョウ「野郎、こうも激しいと合体する暇が無いじゃねえか!」
ロール「サイキックビーム!!」

ジョウは飛影と風雷鷹か爆竜と合体して、戦況を変えようとするが
戦闘の激しさに合体をする暇が無い。ロールもダンガイオーの
サイキックビームで応戦したりするが、このままでは消耗するばかりである。

ビューンビューン

ズリル長官「何事だ!」
ベガ兵「遠方から、ミサイル攻撃です!」
???「諸君、諦めるのはまだ早いぞ!」

もうダメかというその時。突如、円盤獣達に遠方からミサイル攻撃を受ける。
『諦めるな』という言葉と共に、近づいてきたのは青と赤のカラーリング
をした鮫の様な形をした宇宙船だった。そしてモニターに海賊の恰好を
した2人が映し出される。

ボンバー「何者だ、てめえ!」
海賊の恰好した2人「「悪に染まりし、Gショッカーよ!!」」
ズリル長官「悪!」
???「そう。我々はお前を叩くため...」
???「大宇宙が遣わした...」
???「正義のヒーロー!」
イーター&シリアス「「その名も、宇宙海賊・イーザックブラザーズ!!」」
キャオ「あいつら、ワルターとシリアスか!?」
アム「何で、ここにいるの?」

エルシャンクや各機体のモニターに通信を入れてきたのは、
イーターことワルター・ワルザックの乗る海賊戦艦にしてレジェンドラの
勇者でもあるキャプテンシャーク達だった。彼らが何故、ここにいるのか
キャオやアムは驚く。

シーマ王女「お怪我はありませんか、ロミナ姫!」
ロミナ姫「シーマ王女...援軍に駆けつけてくれたのですね。
     感謝します」
ジン「お礼は後で。まずはこの場からの離脱が先です」
イーター「その通り。キャプテン、我々の力を見せるのだ!」
キャプテンシャーク「任せな、船長!」

キャプテンシャークの後から現れたのは、シーマ王女やフラッシュマン達
が乗るスターコンドルだった。ロミナ姫からお礼を言われるが、まずは
この場を切り抜けるべきだとジンは言うと、スターコンドルで援護を始める。
イーターもキャプテンシャークに攻撃の指示を出すと、スパイラルランチャー
を始めとする装備でタコンパスやミニフォー、マシン獣等を倒していく。

ジョウ「よ~し。レニー、今の内に空魔に合体だ!」
レニー「OK、ジョウ!」

ジョウも今の内に、レニーの風雷鷹と飛影を合体させて、空魔となる。
空魔となると、その高速移動で次々と敵機を破壊していく。

ロール「こっちは、サイキック斬だ!」

ダンガイオーも必殺のサイキック斬で、量産機であるバラソーサーや
バラミサイラーを破壊した。

ズリル長官「これは、不味いぞ!」
ボンバー「くっそぉぉぉ、撤退だ!撤退しろ!」

戦況が覆され、ズリル長官やボンバー・ザ・グレートはその宙域から
撤退し、イーター達の合流により、事態は終息するのであった。

106

***エルシャンク***

事態を終えた一同は、エルシャンクに集まる。

シャランラ「カッコよかったですわ~、イーター様!」
イーター「だあああ、離れてくれ。シャランラ・・・(汗」
カーネル「お疲れ様です。イーター様、シリアス様。こちらは紅茶にございます」
レイザー「ワン!」
シリアス「ありがとう、カーネル。そして、レイザーもありがとう」

戦闘を終えて、イーター(ワルター)に抱きつく自称婚約者のシャランラに
イーターはたじたじになる。執事のカーネルはイーターとシリアスに紅茶を
用意し、シリアスの飼い犬であるレイザーもシリアスに声を掛ける。

キャオ「相変わらず、熱いね」
アム「しばらく見なかったけど、全然変わってないわね」

ターナから来たキャオやアムはイーターとシャランラのやり取りに
相変わらずだなと思う。

ダバ「イーター・イーザック。タクヤ達に会ったんだが、彼らは地球へ帰ったよ」
イーター「何と、タクヤ達に会ったのか?」
レッシィ「あなた達はどうしてたの?」
カーネル「我々はタクヤ様達と逸れてしまった後、各地を転々としている内に
  Gショッカーと戦うレジスタンスの方々に助けられ、今はその一員となって
  各地で戦っております」
シリアス「そして、同じくレジスタンスとして戦っているエルシャンクを探して、
 シーマ王女達と共に、この宙域へ来たのです」
ダバ「エイジの言っていたレジスタンスは、君達の事だったのか!」

ダバは地球へ帰ったタクヤ達の事をイーター達に伝えると、彼らから
レジスタンスとして活動している事を聞かされ、驚くのであった。

リリス「私たち、レジスタンスに合流しようと思って外宇宙を旅していたの」
ジン「それはこちらとしても、仲間が増えて嬉しいよ。こっちは歓迎するよ」
ダバ「ありがとうございます!」

ダバ達が旅していた目的を知ったジンはダバ達が、レジスタンスに合流する
事を歓迎するのであった。

ロミナ姫「・・・ブレイバーズですか?」
シーマ「はい、先日星間評議会と地球連邦政府に間で取り交わされた協約に
 基づいて結成された部隊です。我々レジスタンスの方でも、星間評議会から
 打診を受けました。その中で、全宇宙の王女やご令嬢によって結成された
 支援組織プリンセス・ユニオン(PU)があるのですが、ロミナ姫にはPU
 のメンバーになっていただきたのです」

一方、ロミナ姫はシーマから、ブレイバーズや星間評議会からロミナ姫に
プリンセス・ユニオン(PU)の一員となってほしいという打診があった
事を話すのであった。

ロミナ姫「私に勤まるのでしょうか?」
シーマ「既に、アルテア星のファーラ姫はPUの参加を決意して下さりました。
  ロミナ姫も十分、その資格はあります」
ロミナ姫「・・・分かりました。そのお話お受けさせていただきます!」

ロミナ姫はシーマからの話を聞き終えて、しばらく考えるとシーマに
PUの参加を表明するのであった。

107

○ダバ・マイロード→戦闘後、レジスタンスに合流する。
○ジョウ・マヤ→レニーの乗る風雷鷹と飛影を合体させて、空魔となった後
     敵を一掃させる。
○レニー・アイ→ジョウの乗る飛影と風雷鷹を合体させて、空魔となる。
○ロミナ・ラドリオ→戦闘後、シーマからPU参加の打診を受け、参加を決意する。
○シャフ→攻撃の衝撃に狼狽える。
○イルボラ・サロ→零影が出撃出来ない事に歯痒い思いをする。
○ガメラン→フォトン砲の用意を指示する。
○ロール・クラン→ダンガイオーで、量産機のマシン獣を倒す。
○イーター・イーザック=ワルター・ワルザック→エルシャンクの援軍に駆けつける。
○シリアス・ワルザック→エルシャンクの援軍に駆けつける。
○キャプテンシャーク→エルシャンクの援軍に駆けつける。
○シャランラ・シースルー→戦闘後のイーター(ワルター)に抱きつく。
○カーネル・サングロス→戦闘後のイーターとシリアスに紅茶を用意する。
○レイザー→シリアスに声を掛ける。
○ジン→ダバ達がレジスタンスに合流する事を歓迎する。
○シーマ王女→ロミナ姫にPU参加の打診を伝える。
●ズリル長官→戦況が不利となり、撤退する。
●ボンバー・ザ・グレート→量産機のマシン獣を繰り出すが、撤退する。
●バラソーサー→量産機が出撃するが、倒される。
●バラミサイラー→量産機が出撃するが、倒される。

【今回の新登場】
○シャフ(忍者戦士飛影)
ロミナ姫の御付きの侍女。世間知らずな所があるが、落ち着いた性格
をしており、ロミナを暖かく補佐する。

○ワルター・ワルザック/イーター・イーザック(黄金勇者ゴルドラン)
ワルザック共和帝国第1王子にして、同国の駐日大使。文武両道、
容姿端麗の貴公子を自称する三枚目。メカの操縦や古代の暗号を
読み解く知性を持ち合わせているが、世間知らず故に間抜けさと
甘さで幾度も勇者に敗北する。弟シリアスとの戦いで宇宙に吹き飛ばされた
際、月にてキャプテンシャークが封印されたパワーストーンを偶然発見し
宇宙海賊イーター・イーザックを名乗ってタクヤ達をサポートした。

○シリアス・ワルザック(黄金勇者ゴルドラン)
ワルザック共和帝国第2王子で、ワルターの弟。幼少の頃から英才教育で
天才的な頭脳の持ち主。自分以外の人間は信用せず、愛犬のレイザーと
アンドロイドの兵士は手元に置いていなかったが、実は誰よりも愛に
飢えていた。終盤、タクヤ達と和解して兄と共に宇宙海賊イーザックブラザーズを名乗る。

○シャランラ・シースルー(黄金勇者ゴルドラン)
ワルザック共和帝国の貴族シースルー家の令嬢。ワルターの自称婚約者で
「シャララララ・・・」を口癖としている。天真爛漫な性格で、ワルターに対する
アプローチから彼にトラウマを植え付けてしまっている。

○カーネル・サングロス(黄金勇者ゴルドラン)
ワルターの執事を務める老紳士で、シリアスが実験を握った後も
ワルターに忠実な人物。実はワルザック共和帝国ロボット兵器開発省
に密かなパイプを持ち、TPOに合ったロボットを調達している参謀でもある。

○レイザー(黄金勇者ゴルドラン)
シリアスが唯一心を許す賢く忠実な飼い犬。シュバンシュタインが暴走した時
シリアスを無理やり脱出させた後、死んだと思われていたがレジェンドラ王に
助けられていて、後にシリアスの下に返された。

○海賊戦艦キャプテンシャーク(黄金勇者ゴルドラン)
月面に封印されていた金色のパワーストーンの中で眠っていた9番目の
勇者。サメ型宇宙戦艦に変形する。目覚めさせたイーターを船長と呼び、
自分の事をキャプテンと呼ばせている。他の勇者が悪の手に堕ちるなど、
もしもを想定して作られた勇者である。性格は一見豪快だが、合理的かつ理性的。


『銀河烈風隊、イーバに遭遇ス』-1

作者・ユガミ博士

108

***エドン国・エドン星首都***

黄泉還りにより前大戦で戦死した局長ドン・コンドールことディーゴ・近藤を
はじめ、多くの隊員が生き返り、銀河烈風隊に復帰した。
彼らは現在、エドン国にて治安維持部隊として活躍している。

ディーゴ「こうして見ると、平和だな」
シュテッケン「ああ・・・」

エドン星の首都をパトロールするディーゴとシュテッケンは街の人々の
笑顔を見て、ディーゴが思いを口にする。

シュテッケン「だが、この宇宙にはGショッカーなんて悪党共が蔓延っている。
  それに最近じゃあ、宇宙連合の方でもきな臭い噂を聞いているぜ」
ディーゴ「なぁ~に、俺達にかかれば敵う敵はないさ!」
シュテッケン「・・・そうだな、ディーゴ。(だがな、ディーゴ。俺はもう
 お前さんが死ぬ姿なんて見たくねえんだ・・・)」

シュテッケンはディーゴに今の宇宙事情を話す。Gショッカーはゴズマ軍に
宇宙帝国ザンギャックが加わり、大ザンギャックに編制され、宇宙連合の方でも
タカ派の勢力が宇宙の覇権を握るべく独自に地球へと戦力を送ったという噂を聞く。
他にも、宇宙ではあらゆる勢力が動きを見せている事をシュテッケンは情報収集で
手に入れた話を継げた。それに対し、ディーゴは彼らから平和を守ろうと決意する。
その一方で、シュテッケンはディーゴをまた死なせはしないと固く決意するのであった。
そしてシュテッケンの下にスリーJから通信が入る。

スリーJ@通信『シュテッケンさん、大変です!パトロールをしていた
 5番隊のカン・リュウさんが何者かに殺害されました!』
シュテッケン「何だと!?」

スリーJからの報せは、ディーゴのように前大戦中に戦死し、黄泉還ったカン・リュウ
という5番隊に所属している銀河烈風隊の隊員なのだが何者かに殺されたという報せが入る。

***殺害現場***

ディーゴ「―これは!」
カン・リュウ「・・・・」

現場には、連絡を報せたスリーJに連絡を受けたビリー、ライラ、佐馬達
隊長各が駆け付けており、ディーゴとシュテッケンは、死体となってしまった
カン・リュウを見る。その顔はまるで恐ろしい物を見たという具合に恐怖で
固まった顔で、全身が何か爪で引き裂かれたかのような傷を負っていた。
またカン・リュウ以外にも隊員が数人、同じく死体となって倒れていた。

シュテッケン「一体・・・誰が殺したぁぁ!」
スリーJ「お、落ち着いて下さい、シュテッケンさん!!」
ディーゴ「落ち着け、取り乱すなんてお前らしくもない!そんなんじゃ
 “諸刃のシュテッケン”の名が泣くぜ!!」
シュテッケン「―!?すまねえ、俺とした事が取り乱しちまった」

仲間の死にシュテッケンは激昂するが、ディーゴによって冷静さを
取り戻した。

士郎「待って下さい・・・近くに何かいます!」

前大戦で目が見えなくなった士郎は視覚を失ったかわりに、他の
感覚が鋭くなっており、ここにいる人間以外の気配を察知した。

ケットシーイーバ「フシュゥゥゥ!」
佐馬之介「何だ!?猫の化け物か!」

現れたのは巨大な猫の様なケットシーイーバだった。カン・リュウ達を
始め、殺害したのは黄泉還りによって生き返った隊員達だったのだ。
ケットシーイーバは同じく、黄泉還り現象で現世に生き返ったディーゴに狙いを定めた。

109
ケットシーイーバ「フシャァァァァ!!」
烈風隊隊員A「ぎゃぁ!」
烈風隊隊員B「ぐわぁ!」

ケットシーイーバは目にも止まらぬスピードで、烈風隊隊員を
その鋭い爪で次々と斬り裂き、血祭に上げていった。

シュテッケン「野郎・・・!」
士郎「ドン・コンドールはやらせはしません」
佐馬「これなら、どうだ!」

佐馬は、ケットシーイーバに向かって銃を放つが、地球にも現れた
他のイーバ同様、小さな時空クレバスを発生させて銃弾を全て回避した。

ライラ「あれは、時空クレバス!」
ディーゴ「何て、奴だ!」
士郎「ディーゴ、下がってください。銃が駄目なら、剣で対抗するまでです」

烈風隊一の剣の天才である士郎はディーゴを下がらせると、研ぎ澄まされた
感覚でケットシーイーバに一太刀浴びせようと斬りかかるが、流石の士郎でも
なかなか捕える事が出来ない。

ケットシーイーバ「フシャァァァ!!」
士郎「ぐぅ!」
シュテッケン「士郎!」

そしてケットシーイーバの長い爪は、士郎を襲う。すんでの所で士郎は
躱したが、肩を負傷してしまう。そして、そのままケットシーイーバは
ディーゴを始末しようと襲い掛かる。

ディーゴ「これまでか!」

ディーゴは最早、ここまでかと覚悟した。しかし、いつまでたっても
攻撃がこない。目を開けると、ディーゴの前に盾があり、バリアーの
ようにケットシーイーバからディーゴを守っていた。

シュテッケン「こいつは一体・・・」

シュテッケン達はディーゴを守る謎の盾の登場に困惑していると、
攻撃が届かずにいるケットシーイーバに斬りかかる2つの影が現れた。

ケットシーイーバ「フシャァァァァ!!!」
???「とりゃぁぁ!!」
???「てやぁ!」

2つの影の一方は鎖鎌を武器とし、前髪が垂れていて、片目だけが
見えている男性で、もう一方は後ろに髪を束ねた強気そうな女性で
ナイフを持っていた。

???「大丈夫か、アンタ!?」
ディーゴ「あ、ああ。君達は一体・・・?」
???「あの化け物は、俺達に任せてくれ。頼むぜ、ギョウ、ノブル!」
ギョウ「応!」
ノブル「任せて、兄さん!」

ディーゴの所に現れた甲冑みたいな衣装を来た大柄な男性は盾を
手にして、ディーゴが無事なのか聞いてきた。そして男性はケットシー
イーバと戦う2人に声を掛ける。どうやら仲間らしい。

ギョウ「うぉぉぉぉ!!」
ノブル「はぁぁぁぁ!!」

ギョウ、ノブルという名前の2人はそれぞれの手にする武器に力を
込めると、ギョウの髪で隠れていた右目が現れる。そこには目玉は
無く、「炎」の文字が書かれた珠があり、光だす。一方、ノブルの方は
ナイフに「鋼」の文字が書かれた珠が光り出した。

ギョウ「せいやぁぁ!!」
ノブル「はぁぁぁぁ!!」
ケットシーイーバ「ギニャァァァァ!!」

先程よりもギョウとノブルの力は増し、鎖鎌やナイフで
ケットシーイーバを傷つける。

ライラ「何て、凄まじい攻撃なのかしら・・・」
シュテッケン「何者なんだ、こいつらは・・・」

戦いを見ていたライラやシュテッケン達は、その凄まじさに
唖然とする。

ギョウ「トドメは任せたぞ、ジンライ!」
ジンライ「応、はぁぁぁぁぁぁ!!」

ジンライという盾を持つ大柄な男性は同じように力を込めると、
盾にはめ込まれた「樹」と書かれた珠が光り出す。

ジンライ「そりゃぁぁぁぁ!!」

ジンライは光り輝くその盾を、円盤投げの如く投げ飛ばす。
その回転はケットシーイーバの体を斬り裂く。

ケットシーイーバ「ぐぅぅぅぅ」

しかし、大きな傷をつけたもののケットシーイーバはまだ健在だったが
流石にダメージは大きく時空クレバスを発生させて、姿を消した。

ジンライ「すまん、トドメを指し切れなかった」
ギョウ「いや、あの怪物はなかなかの強敵だった」
ノブル「お疲れ様、兄さん」
シュテッケン「・・・ディーゴを助けてくれたのは感謝する。
 だが、アンタ等は何者だ?」
ディーゴ「そんな険しい顔をするなよ。士郎の怪我もある。何より、
 隊員達をこのままにしておく訳にはいくまい。詳しい話はバクシンバードで話そう」

ジンライ達を警戒するシュテッケンだが、ディーゴの提案で銀河烈風隊の
移動基地であるバクシンバードで詳しい事情を聞く事にした。

110

○ディーゴ・近藤→ケットシーイーバに襲われるが、ジンライ達に助けられる。
○シュテッケン・ラドクリフ→ディーゴを守るべく、ケットシーイーバに立ち向かう。
○真帆羽士郎→ディーゴを守るべく、ケットシーイーバと戦闘する。
○ライラ・峰里→ディーゴを守るべく、ケットシーイーバと戦闘する。
○佐馬之介・ドーディ→ディーゴを守るべく、ケットシーイーバと戦闘する。
○ジャン・ジャック・ジャーニー→シュテッケンに烈風隊隊員が殺された事を報せる。
○ギョウ・エンジョウ→ケットシーイーバと戦闘する。
○ノブル・コンゴウ→ケットシーイーバと戦闘する。
○ジンライ・ハズキ→ディーゴを助けて、ケットシーイーバに大ダメージを与える。
○カン・リュウ→ケットシーイーバに殺される。
●ケットシーイーバ→黄泉還った銀河烈風隊隊員を殺害。ディーゴを狙うが
   ジンライ達に阻まれ、負傷して撤退する。

【今回の新登場】
○ジャン・ジャック・ジャーニー(銀河烈風バクシンガー)
 通称「スリーJ」パンチョ・ポンチョに憧れる闇の武器商人だが、シュテッケンに
 騙されてバクシンガーとその母艦バクシンバードを造り、しかもディーゴに
 丸め込まれてその代金を踏み倒される。そのまま仕方なく彼らと同行するが、
 やがて、その情報網や諜報能力を活かして何度も銀河烈風隊の危機を救う。
 腐れ縁から自ら最終決戦にも参加しようとするが、シュテッケンから「商人には
 商人の戦い方がある」とそれを許さず、彼にバクシンバードを返還、生き延びさせる。

○ギョウ・エンジョウ(神八剣伝)
 機天でエルメ組として活動していた青年。「炎」の珠を持つ。
 鎖鎌付きの警棒が武器で、球は自身の右目にはめ込まれている。
 元は警察官だったが、ギンジ警部の罠で妻であるアヤを失った復讐心から
 エルメ組に入る。自身が家族を失った悲しみを知っているため、父親の
 いない母子家庭や、親のいない子供に優しい。

○ノブル・コンゴウ(神八剣伝)
 鉱天で一揆組として活動していた女性。過去に親を目の前で殺された事から
 軍を憎むようになり、荒っぽく好戦的な性格になった。「鋼」の珠を持ち、
 武器であるナイフにはめ込んでいる。実はジンライと兄妹なのだが、ジンライが
 両親を殺したと思い込み、長らく受け入れられずにいた。

○ジンライ・ハズキ(神八剣伝)
 樹天でゲリラ活動をしていた青年で、「樹」の珠を持つ。産まれて
 間もなく生き別れた両親を探していた。武器であり防具でもある
 盾に球をはめ込んでいる。お人好しで、防御力に優れている。
 ノブルの実の兄。

○カン・リュウ(闘争の系統オリジナル)
 黄泉還りにより生き返った銀河烈風隊の隊員。所属は5番隊。
 モデルは新撰組の武田観柳斎。

●ケットシーイーバ(闘争の系統オリジナル)
 大きな猫の獣人の様な姿をしたイーバ。獰猛で長い爪を武器にしており
 高速移動を得意としている。


『銀河烈風隊、イーバに遭遇ス』-2

作者・ユガミ博士

111

***バクシンバード***

ミト王子「ドン・コンドールが襲われたって!?」

あの後、ディーゴ達はバクシンバードに戻った。そこに襲撃の話を
聞いて、ミト王子が従者のデューク・スケード、バロン・カークスを
伴ってやって来た。

ディーゴ「ミト王子・・・わざわざご足労ありがとうございます。
 この通り、傷一つ付いておりません」
シュテッケン「・・・だが、他の隊員達が化け物の手に掛かり、この世を
 去りました・・・」
ミト王子「そうか・・・他の隊員達が」

ディーゴは自分の無事を伝え、シュテッケンは殺された烈風隊隊員達を
ミト王子に報せる。話を聞いて、ミト王子はショックを受けた。

スケード「士郎殿も負傷されたとか・・・」
士郎「ご心配をお掛けして申し訳ありません。でも、肩の傷は安静に
 していれば、すぐに回復するので大丈夫です」

スケードも士郎の肩の負傷を心配するが、士郎は大丈夫だと返す。

カークス「・・・所で、そちらの方々はどなたかな?」
ディーゴ「彼らは、私を助けて怪物と戦った方々です。そういえば、
 まだ名前を聞いていなかったな」
シュテッケン「あんたらは、一体何者なんだ?」

カークスは部屋に控えているギョウ、ジンライ、ノブルの3人の事を聞く。
ディーゴはミト王子達に助けられた事を話し、まだ名前や詳しい素性を
聞いていなかったので、シュテッケンは警戒をしながら、3人に問いただす。

ギョウ「俺の名はギョウ・エンジョウ」
ジンライ「ジンライ・ハズキだ。こっちは妹のノブル」
ノブル「ノブル・コンゴウだ。よろしく頼む」

3人は名前を明かすと、詳しい素性を話す。実は彼ら3人もJ9達と
行動を共にしているコウやトモカの仲間だった。

佐馬「そういえば、JJ9チームからの連絡で時空転移してきた人間を
 2人保護したと言っていたなぁ」
ライラ「確か、コウ・ヤガミとトモカ・タイガだったわね」
ジンライ「2人を知っているのか!?」

ジンライ達はこの世界に、自分達だけでなくコウやトモカも来ていた事に
驚く。そして彼らが地球を目指して旅している事を話した。

ノブル「コウ達も来ていたのね」
ギョウ「地球か・・・俺達もこの世界に来て、目指していたんだが
 ますます行かなくてはいけないな」
ジンライ「こうなると、他の皆もいるかもしれないな」

この世界に転移して以来、地球を目指して旅している3人は、コウ達も
地球を目指していると聞き、このまま再会できるかもしれないと思う。
また、他の仲間もこの世界に来ているのではないかと考える。

ディーゴ「もし、よければだが・・・しばらく銀河烈風隊の一員にならないか?」
シュテッケン「ディーゴ!?」
ギョウ「何故だ」
ディーゴ「君らの力は、実に頼もしいからだ。それに君らの仲間は
 我々の仲間と共にしている。故に我々と共にいた方が、再会
 しやすいと思うからだ」
ミト王子「うん。それにこの宇宙は民を苦しめる者達が蔓延っている。
 そんな民を守るべく、ブレイバーズという部隊が発足したんだが、
 銀河烈風隊にも、参加してもらうつもりだ。そうすれば、地球にも
 行く事にもなるし、君達にもいい話だと思うんだが・・・」

ディーゴはギョウ達に烈風隊の一員となってほしいという提案を話す。
ミト王子もいずれ、ブレイバーズに銀河烈風隊を参加させようと考えて
いて、地球にも行かせるつもりだった。

ノブル「どうするんだ?」
ジンライ「コウ達にも再会できるっていうし、悪くない話だぜ?」
ギョウ「・・・分かった。俺達はあんた達の部隊に加わらせてもらう」
ディーゴ「ありがとう。これから、よろしく頼む」

ディーゴ達からの提案をギョウ達は受け入れた。そして、烈風隊や
ミト王子達はギョウ達に自己紹介を行った。

ライラ「だけど、あの怪物は一体、なんなのかしら?」
???「その事については、俺から話させてもらう」

烈風隊隊員を殺し、ディーゴを襲った怪物が何なのか、疑問に思った
その時。バクシンバードの治療室に誰かが入ってきた。

112 
シュテッケン「誰だ、アンタらは!?」
快「失礼、自分は銀河連邦警察所属の宇宙刑事、日向快。
 コードネームはシャリバン」
シシー「シャリバンのパートナーである宇宙科学捜査官のシシーです。
 今回、襲撃してきた怪物の件で、こちらへ伺わせていただきました」

部屋に入ってきたのは、銀河連邦警察に所属する宇宙刑事で、伊賀電から
シャリバンのコードネームを受け継いだ日向快とパートナーのシシーである。

シュテッケン「あの怪物を知っているのか!?」
シシー「はい。烈風隊の皆さんを襲った怪物の名はイーバ。現在、地球を
 中心に、その存在が確認されている怪物です」
ディーゴ「地球で?」

シシーは、今回襲った怪物がイーバである事を話す。そして、彼らは
時空クレバスを自在に操り、黄泉還りでこの世に生き返った人種を
襲うという事を説明した。

ミト王子「なるほど。だから、ドン・コンドールも襲おうとしたのか」
カークス「う~む。一体、イーバとは何なのだ?」

ミト王子はディーゴが襲われた理由に納得をする。カークスは
イーバという謎の怪物に頭を悩ませた。

快「これまでは地球でしか、存在を確認されなかったんだが他の
 惑星でも、イーバの存在が確認されるようになった。そのため、
 銀河連邦警察が動いているというわけだ」

快は宇宙各地でも、イーバの出現が確認され、銀河連邦警察が
事件の対処に追われている事を話す。

ジンライ「あの怪物、地球にも現れるんだろ?コウ達は大丈夫だろうか?」
ノブル「コウ達は強いからね。そう簡単にくたばりはしないさ」
ギョウ「ああ、その通りだ。(・・・気を付けろよ。コウ、トモカ!)」

宇宙でも出現するようになったイーバ。外宇宙でも新たなステージに
入ろうとしていた。


 113 
○エドワード・ミト→銀河烈風隊が襲われたと聞き、バクシンバードにやってくる。
○デューク・スケード→ミト王子の供で、バクシンバードにやって来る。
○バロン・カークス→ミト王子の供で、バクシンバードにやって来る。
○ディーゴ・近藤→ミト王子達に襲撃の詳細を話す。ギョウ達3人を烈風隊にスカウトする。
○シュテッケン・ラドクリフ→ギョウ達3人に素性を聞く。
○真帆羽士郎→肩を負傷したが、安静にしていれば回復する模様。
○ギョウ・エンジョウ→ディーゴの提案で、銀河烈風隊の一員となる。
○ジンライ・ハズキ→ディーゴの提案で、銀河烈風隊の一員となる。
○ノブル・コンゴウ→ディーゴの提案で、銀河烈風隊の一員となる。
○日向快→イーバの件でバクシンバードに訪れ、烈風隊達にイーバについて話す。
○シシー→イーバの件でバクシンバードに訪れ、烈風隊達にイーバについて話す。

【今回の新登場】
○日向快=二代目宇宙刑事シャリバン(宇宙刑事ギャバンTHEMOVIE/宇宙刑事NEXTGENERATIONシリーズ)
 伊賀電からシャリバンのコードネームを受け継いだ宇宙刑事。伊賀電らイガ星人の子孫が復興したイガ星の出身。
 子供の頃から物事を常に計算し、何事も計算の上で行動するタイプ。「完璧な計算」に拘っており、電やアイリーンから苦言を呈されていたが、ネオマドーの事件を通して大きく成長し、計算だけに頼る考えを改めた。

○シシー(宇宙刑事シャリバンNEXTGENERATION)
 宇宙科学捜査官で快のパートナー。いつも任務で訪れる星の情報を事前に収集して
 覚えており、幼い見た目に反して仕事には非常にまじめ。料理も得意で、グランドバース
 での食事を担当している。


『二人皇帝、エンペリアスを目指す』-1

作者・ティアラロイド

114

***惑星エンペリアス・星間評議会首府***

コム「アルマナ姫、地球までの遠路の旅、
 誠にご苦労に存じます」
アルマナ「おかげさまで無事に使命を果たす事が出来ました」

ブレイバーズ創設の協議のため、星間評議会から特使として
地球に赴いていたアルマナ・ティクヴァーが一行が無事に帰還した。
評議会首府の議事堂前大廊下で出迎えたコム銀河連邦警察前長官がその労をねぎらう。

アルマナ「コム前長官には、この度は星間評議会議員に
 ご就任の運びとなったそうで、謹んでお喜び申し上げます」
コム「退任後に政治家ポストに天下るような事だけは
 何卒ご容赦をと頑張ってみたのですが…」
マリーン「結局はカミュエル卿に押し切られたのです。
 ようやくブレイバーズの組織も軌道に乗り始めたばかり。
 まだまだ長官に楽隠居されては困ると――」
コム「マリーン、私はもう長官ではないよ」
マリーン「あら、これは失礼しました」

星間評議会では戦時ながら数年ぶりに間接選挙がおこなわれ、
ジュリアス・カミュエルの要請を受けたコムは、最初は拒み続けたものの、
断り切れず、最高議長の推薦枠で当選。星間評議会のバード星選出代表議員となった。
今回の評議会選挙では、カミュエル率いる政党「摂理の党団」が第一党に躍進し、
カミュエルは行政府の首相に選出される見通しだ。

アルマナ「コム議員も摂理の党団に所属なされるのですか?」
コム「いや、私は無所属だ。どうも政党政治と言うものは
 しがらみが多くてね。私の性に合いそうもない。しかし
 一度議員の地位をお引き受けした以上は、現場で戦っている
 若い者たちのために精一杯の事はやらせてもらう所存だ」
アルマナ「銀河連邦警察は今大変な時期のようですね…」
コム「うむ。ゴードン君には無理な重荷を背負わせてしまったのかもしれない…」

コムの古巣である銀河連邦警察は今、前代未聞の不祥事に揺れていた。
コム前長官の後任を引き継いだニコラス・ゴードン新長官の就任早々の
不正スキャンダルが発覚したのだ。娘の犯罪行為のもみ消しを行ったとして、
ゴードン新長官は現在、宇宙警察本部からの正式な処分が下るまで謹慎中の身である。

コム「正式な新長官が選任されるまで、宇宙警察本部のヌマ・O長官が
 直接銀河連邦警察の指揮を執る事になるでしょう」
アルマナ「それでは宇宙警察の本部の運営がおろそかになるのではありませんか?」
コム「その点についてなのですが、どうもカミュエル卿は
 宇宙警察総裁の官職を復活させるつもりのようだ」

「宇宙警察総裁」とは、三次元宇宙の治安を統括する宇宙警察機構において、
常置職のトップである「長官」よりもさらに上位に置かれる、行政府閣僚級の
臨時職である。宇宙帝国ザンギャックのスパイ・魔空監獄獄長アシュラーダが
成り済ましていたウィーバルなる人物を最後に、今まで宇宙警察に総裁職は置かれていない。

アルマナ「それで、その新任の宇宙警察総裁にはどなたが?」
コム「カミュエル卿ご自身が兼務なされると聞いています」

115

***同首府・行政府首相執務室***

仮面の女「行政府首相の椅子の座り心地はいかがですか?」
カミュエル「悪くはないよ…」

星間評議会最高議長ユーガー王子より行政府首相就任の大命を謹んで
拝命したジュリアス・カミュエルは、早速首相専用のオフィスへと入った。

カミュエル「だが椅子の座り心地を満喫している時間は
 我々にはない。首尾よくブレイバーズの組織が設立されたからには、
 次に取り掛からなければならない大仕事がある。それもすぐにだ」
仮面の女「銀河帝国皇帝のエンペリアス星訪問ですね」
カミュエル「その通りだ」

宇宙には「三次元宇宙全体を統べる正当なる覇者である!」と称する
列強国家は数多い。そのような大国は総じて、星間評議会の存在すら
認めていない場合も多い。ローエングラム王朝・神聖第三銀河帝国も
そんな数ある星間国家の一つである。

地球の次は、銀河系宇宙最大の版図を誇る銀河帝国の協力を得る。
それが策士ジュリアス・カミュエルの描く次なる戦略であった。

カミュエル「戦乱の世を治めるためには、どうしても大国の協力は
 欠かせないものとなる。星間評議会の存在を銀河帝国に認めさせるためには、
 この皇帝来訪はなんとしても成功させなければならない」
仮面の女「すでに折衝も終わり、

 帝国の実権を握るヒルデガルド皇太后からも内諾を得ています」
カミュエル「上々だ。引き続き準備を進めてくれたまえ」
仮面の女「かしこまりました」


***仮面の女の私室***

一人だけ自室に戻った仮面の女は、ベットの端に腰をかけると
醜悪な悪鬼の顔が刻まれた鉄仮面を静かに外す…。

仮面の女「………」

仮面の女は一年前の出来事を思い出す。

 ◇   ◇   ◇

神聖ブリタニア帝国の第3皇女、ユーフェミア・リ・ブリタニアは
「行政特区日本」の設立記念式典に置いて日本人を虐殺。
「虐殺皇女」の汚名を被って死んだ。そして彼女は黄泉がえった。
しかしユーフェミアが蘇生した世界は、自分が元いた世界とは
全く別の平行宇宙(パラレルワールド)だったのだ。

ユーフェミア「こ、これは……!!」

ユーフェミアは映像を見せられ愕然とした。
自分が式典に集まった日本人虐殺を兵士に命じ、
また自らも率先して虐殺に加わる様子に…。
自分が息を引き取る寸前、枢木スザクは「特区は成功した」と告げてくれた。
しかし真実は、最悪な形で特区は失敗に終わっていたのだ。
全てはギアスの誤作動によるもので、心神喪失の刑法原則から言えば
決してユーフェミアに罪はないのだが…。

残酷な現実を見せ付けられたユーフェミアは
懐剣を手に取り自害を図った。しかしカミュエルによって止められる。

カミュエル「ユーフェミア姫、死んではならん!」
ユーフェミア「いいえ死なせて下さい!

 こうなってはもはや何の望みも…」
カミュエル「いや、貴女は常識や慣習に囚われない柔軟な発想力と
 大胆な行動力をお持ちだ。その貴女の聡明な頭脳が私には欲しい!
 死ぬ事ならばいつだって出来る。だが、その前に今一度だけ
 世のためにその力を存分に使って働いてみようとは思われんか?」
ユーフェミア「………」

 ◇   ◇   ◇

こうして、ユーフェミア・リ・ブリタニアという名の女は
再びこの世から消えた。今ここにいるのは一介の名もないただの女。

仮面の女「………」

暫し休息した後、女は再び鉄のマスクを装着して自室を出て歩み出す。
たとえそれがどんな修羅の道であろうとも…。

116

***惑星ビージー***

まだ暁のうちである。今までの黒一色の空が青みがかってくる。
その日のビージー星は、初夏という季節であった。
頭に擂鉢型の塗り傘を目深にかぶった、
銀河帝国より私掠船免状を賜る宇宙海賊・鉄の髭は、
兵法者を装ってもう二カ月も宇宙各地を放浪する旅を続けていた。

鉄の髭「………」

鉄の髭はふと、前方に人影を見つける。
病気か負傷したかで、生き倒れとなったのであろう。
鉄の髭は用心深く近づいて目を凝らした。

若い女だった。ただし尼僧(シスター)である。
うつ伏せになった尼僧の背中が波打っていた。

鉄の髭「どうした?」

鉄の髭は声をかけるが、尼僧はそれを無視する。
この戦乱の時期に、たとえ神に仕える尼僧であろうとも
若い女が広い宇宙を一人旅など無謀である。
ましてやここ惑星ビージーはお世辞にも治安のよい星とは言い難い。
追剥か強姦の犠牲となるのが関の山だ。

鉄の髭「怪しい者ではない。近くの人家まで送ろう」

しかし尼僧は執拗に鉄の髭の救いの手を拒んだ。
そして尼僧の気魄、凛とした気品、使命感に燃えるような眼光。
不審を抱いた鉄の髭は、この女が偽物の尼僧であると見抜いた。
それもかなりの訓練を受けたプロの戦闘員か軍人だ。

鉄の髭「お前は本物の尼僧ではないな?」
尼僧「寄るな!」

女はマイクロチップのような物を取り出して、
口の中に飲み込んだ。密書か何か、とにかく重要な者を
他人の手に渡らぬうちに処分しようとしているのだ。

尼僧「ぐぶっ…」

女の口からは大量の血が出た。
舌を噛み切ったのだ。
気がつくと、鉄の髭は怪しげな黒ずくめの男たちに
取り囲まれていた。

黒ずくめ「その女人の亡骸をこちらに引き渡していただこう」
鉄の髭「…いやだと言ったら?」
黒ずくめ「殺ッ…!!」

リーダーらしき男の号令と共に、5人の黒ずくめが
一斉に刃を向けて鉄の髭に飛びかかった。
鉄の髭の身体は舞うように半回転した。
黒ずくめよりも鉄の髭の太刀の方が数倍早く動いて、先手を取った。
閃光が走り、黒ずくめたちは皆、鮮血を吹き上げて倒れる。

辺りが静まった時、宇宙海賊船パラベラム号が上空に現れた。

シェイン「船長(キャプテン)!」
鉄の髭「シェインか。この女の死体を船の中に運べ。
 大至急調べたい事がある」

117

***惑星フェザーン・軍務省***

フェザーン回廊に存在する恒星フェザーンと
4つの惑星から構成されるフェザーン星系。

その第2惑星フェザーンは、かつては自治商人の貿易によって栄えたが、
その後、獅子帝ラインハルトによって銀河帝国に併合され、
後年の遷都令によって、帝国の首都と定められた。

宇宙海賊船パラベラム号と共にフェザーンへと戻った鉄の髭は、
帝国軍務省のある人物の元へ報告に出向く。

ウォルフガング・ミッターマイヤー首席元帥。

銀河帝国の現・軍務尚書である。
獅子帝ラインハルト亡き後のローエングラム王朝を支えた重臣たちの筆頭であり、
過去には宇宙艦隊司令長官も歴任。「疾風ウォルフ」の二つ名で知られ、
建国の父である先帝ラインハルト、そして今現在摂政として帝国の実権を握る
皇太后ヒルデガルドからも最も信頼を受ける勇将である。

鉄の髭「ただ今戻りました」
ミッターマイヤー「出立してよりちょうど、65日目にして
 戻った事に相成るな」

ミッターマイヤーは労をねぎらう目で、鉄の髭に笑いかける。

鉄の髭「かねてよりご命令通り、皇帝行幸の道中安全確保の
 露払いのため、エンペリアス星までの航路上の星々をくまなく
 探索に努めました」
ミッターマイヤー「うむ…」
鉄の髭「しかし辺境の惑星ビージーに立ち寄った際、
 思いがけず奇怪なる女人と巡り合いましてございます。
 つきましては由々しき大事を予言致すがごとき仔細、
 何卒お聞き取り願いたい」

鉄の髭は、惑星ビージーで出会った尼僧を装った女の一件を、
ミッターマイヤーに漏らすことなく報告した。
鉄の髭は話を続けながら、その尼僧の遺体を解剖して
胃袋から取り出したマイクロチップの解読結果を示す。

Auf dem Weg von Miyuki, Schaden der Verwendung Bansaku an verschiedenen Orten auf dem Schiff Spalte Festival,
und die Lauf Spezifikationen mir Ihre des Galaktischen Imperiums Kaiser überlebt.
Einige Zeitregelungen Straße mehr, die wir dringend in Wetter bereit, um die Bewegungen zu erreichen.
Wenn Sie diese Chance verpassen zu tun, in der nur schwer wieder hoffen ...
(ご行幸の道中、各所において万策を用いての危害を艦列に加え奉り、
銀河帝国皇帝のご一命を頂戴仕らんと。かねてよりの手筈通り、
我ら早急に動静を決する覚悟にて候。もしこの機を逃せば、再び望むこと困難にて…。)

118

ミッターマイヤー「一大事だ…」

解析結果を読み終えたミッターマイヤーの顔色が一変した。
鉄の髭が思いがけず、暗殺指令の密書の一部を手に入れた。
それには明白で具体的な皇帝暗殺計画の断片が記されていた。
まさに青天の霹靂であった。

到底信じられない。信じたくもない。だが、信じなければならなかった。
この指令書の秘密を守るために、一人の女が自決している。
悪戯や冗談で出来る事ではなかった。

暗殺者の集団は、必死になって計画を練り上げた。
その計画を、本気で実行に移す気でいる。
間近に迫るアレクサンデル皇帝のエンペリアス星訪問を前にして、
皇帝暗殺計画の実行という一大事が、実際に待ちうけているのである。

ミッターマイヤー「他言は無用だ」
鉄の髭「心得ております」

ミッターマイヤーは深呼吸した。

ミッターマイヤー「さて…」

ミッターマイヤーは目を閉じて考え込んだ。
早急に相応の対策を講じなければならない。
ミッターマイヤー一人でどうにかできる事ではない。
手に余るというより、どうしてよいものか見当すらつかないのだ。
こんな時、前任の軍務尚書ならばどうしたであろうとミッターマイヤーは考える。

パウル・フォン・オーベルシュタイン。

ローエングラム王朝創業の暗部を一身に担った男であった。
おそらくオーベルシュタインならば、誰に打ち明ける事もなく
内々のうちに謀略に対するには同じく謀略を用いて、
水面下のうちに事態を処理したであろう。
生粋の武人であるミッターマイヤーは、
謀略家のオーベルシュタインとはすこぶる不仲であった。
だがそのオーベルシュタインは、もうこの世にはいない。
「いなくなってこそ、その人間の価値が分かる」とはよく言ったものだと
ミッターマイヤーは感慨にふける。

いくら一人で思案したところで、何も見えては来ないだろう。
やはりしかるべき人物と協議すべき事であった。
今は亡きオーベルシュタインと並ぶ知謀の持ち主、
そして同じく亡きジークフリート・キルヒアイスに匹敵する人望を集める
温厚で公明正大な人物といえば、この世に唯一人しかいなかった。

ミッターマイヤー「すぐに皇太后陛下にお目にかかる」

119

○コム前長官→銀河連邦警察長官を定年により退任。星間評議会議員に転身。
○マリーン→コム長官の退任に伴い、自らも銀河連邦警察を退職。コムの議員秘書となる。
○アルマナ・ティクヴァー →無事特使としての退任を果たし、エンペリアス星に帰還。
○鉄の髭→惑星ビージーにて銀河帝国皇帝暗殺計画の情報を掴む。
○シェイン・マクドゥガル→惑星ビージーで、怪しい尼僧風の女の遺体をパラベラム号に収容。
○ウォルフガング・ミッターマイヤー →現在はオーベルシュタイン亡き後の軍務尚書を務めており、
 鉄の髭から惑星ビージーでの出来事の報告を受ける。

△ジュリアス・カミュエル→自身が率いる政党「摂理の党団」が星間評議会の第一党に躍進。
 星間評議会の行政府首相に就任。宇宙警察総裁も兼務。
△仮面の女→その正体は、神聖ブリタニア帝国の第3皇女、ユーフェミア・リ・ブリタニアであることが判明。

【今回の新規登場】
○鉄の髭(モーレツ宇宙海賊)
 海賊船パラベラム号を駆る銀河帝国直属の宇宙海賊。その正体は
 死んだと思われていた加藤茉莉香の父にして先代「弁天丸」船長、
 ゴンザエモン加藤芳郎であった。

○シェイン・マクドゥガル(モーレツ宇宙海賊)
 宇宙船パラベラム号の操舵士。弁天丸の操舵士ケイン・マクドゥガルの双子の弟。
 兄と違ってあるアホ毛が特徴。ネビュラカップ開催の際には兄ケインに成り済まして
 白鳳女学院ヨット部にサングラスに竹刀という熱血教師キャラとして潜入していた。

○ウォルフガング・ミッターマイヤー元帥(銀河英雄伝説)
 ローエングラム王朝銀河帝国の「獅子の泉の七元帥」の一人で首席元帥。
 ローエングラム陣営の中で親友・ロイエンタールと並んで「帝国軍の双璧」と称される主要提督の一人。
 艦隊司令官としての能力は、ラインハルトやロイエンタールに比類する強者。
 艦隊の機動力を十全に生かした高速移動を得意とし、追撃中の敵艦隊を追い越してしまうほどの
 用兵の速さから「疾風ウォルフ(ウォルフ・デア・シュトルム)」の異名を持ち、各戦役でも
 合理的で迅速な戦術/戦略を得意としている。乗艦は人狼(ベイオ・ウルフ)。


『二人皇帝、エンペリアスを目指す』-2

作者・ティアラロイド

120

***帝都星フェザーン 帝国士官学校・闘技修練場***

戦斧(トマホーク)を手にして演習用の装甲服に身を包んだ数人が、
同じく装甲服を着用してビーム剣を装備した一人を取り囲んでいる…。
取り囲んでいる側の数人は、じわじわと間合いを詰めながら
やがて一斉に戦斧を振り下ろして飛びかかった。

しかし取り囲まれていた側の一人は、一切動じる様子はなく、
ビーム剣を右肩に担いで構える。次の瞬間、色とりどりの閃光と轟音が
辺り一面の空間に広がったかと思うと、飛びかかった側は全員
鮮やかな斬撃で吹き飛ばされていたのだった。

帝国兵「参りました!」

倒された数人は、直ちに恭しく礼を重んじながら跪いて
自分たちの負けを認める意を示した。
たった一人で、飛びかかって来た数人を返り討ちにして見せた人物は
装甲服のヘルメットを脱いで額の汗を拭う。

アレク「ふぅ……」

露わになった素顔は、黄金色の髪と、青石色の瞳を持つ青年だった。
この人物こそ、誰あろう三次元宇宙の銀河系において最大の版図を持つ、
ローエングラム王朝・神聖第三銀河帝国第二代皇帝、
アレクサンデル・ジークフリート・フォン・ローエングラム1世その人であった。
アレクの父、建国者である先帝ラインハルトが崩御してから、
すでに17年の歳月が経過していた。

サキ「いかがですか、サイブレードの調子は?」
アレク「学院長先生…」

アレクに語りかける、落ち着いた物腰で母性的な女性――
――いや、一見するとアレクとほぼ同じ年頃の少女といっても
差支えない外見だが、実はこの女性はアレクの10倍は長生きしている。

「世界の裏側に在る者」と呼称される、人ならざる存在。
「人工マギウス」または「カミツキ」と称される種族である
彼女の名は流木野サキ。銀河系の歴史について知る者として、
帝国の成り立ちを語り継ぐ者であり、現皇帝の幼少の頃よりの
傅役として、幼年学校を含めた帝国学府の最高責任者である学院長の要職にある。

アレク「悪くはありません。重い戦斧よりも
 ずっと使い勝手がいい」

帝国軍の兵装における近接戦闘は、戦斧(トマホーク)を用いるのが基本だが、
アレクは好んで、このサイブレードを使用する。
サイブレードとは、使用者の精神的エネルギーを刃に具現化する剣である。
主に銀河連邦警察で採用されている、ゴンバットスーツの着用が必須である
レーザーブレードなどとは違い、生身のままでも戦闘で使用可能だが、
その代わり使用者に重い精神的負担を強いる。それを軽々と扱って見せる
アレクには、まさに天賦の才があると言えた。

サキ「ご重臣方がお呼びです。至急、獅子の泉(ルーヴェン・ブルン)にお戻りを」
アレク「またあの話か…! あの話なら断ったはずだ」
サキ「お戻りにならなければ、またご重臣方が
 腹を切って果てると騒がれますよ」
アレク「…皇宮に戻るだけは戻ります。ただし、
 あの話だけは断じて断る! 断じてだ!」

露骨に不機嫌な表情を見せたアレクを、
サキは静かに微笑みながら送り出したのであった。

121

***皇宮・獅子の泉(ルーヴェンブルン)***

新銀河帝国の首都星フェザーンに建設されたローエングラム王朝の皇宮。
ただし初代皇帝ラインハルトは、この皇宮の完成を見る事もなく亡くなっている。
皇帝の礼服に着替えて朝議の間に臨席したアレクは、国務尚書マインホフ、
軍務尚書ミッターマイヤー以下、閣僚たちの出迎えの拝礼を受ける。

アレク「エンペリアスには行かぬ!」

開口一番にアレク皇帝は激昂した。

アレク「母ヒルダに随行して、予はすでに二度までも行幸を経験したが、
 諸事規則尽くめの退屈極まる道中にはほとほと閉口した!」
マインホフ「陛下、それはなりません。この度の行幸は
 生まれながらの皇帝であらせられる陛下のご威光を、
 あまねく宇宙全体に知らしめるためのもの」
アレク「威光など示さずともよい!」
ミッターマイヤー「ローエングラム王朝の御為にございます」
アレク「予は、あるがままの予でありたい…」
ミッターマイヤー「陛下に申し上げます。ご存知の如く、
 今の宇宙はGショッカーやETFなどの不逞の賊軍が
 跳梁跋扈する戦乱の世。これを鎮め、再び銀河系に
 安定と秩序をもたらす事は、先帝陛下のご遺志にも適う事でございます」

ミッターマイヤーに強い言葉で迫られるアレク。

アレク「しかし我が銀河帝国は建前に過ぎぬとは言え
 "外国"の存在を公式には認めていない。これは
 父ラインハルトが自由惑星同盟を滅ぼし、新領土
 (ノイエラント)を設けられて以来の定めだ。
 その件はどう辻褄を合せる?」

確かに自由惑星同盟滅亡後の銀河帝国において、
当時の皇帝ラインハルトは、銀河帝国を銀河系宇宙唯一の
存在する正当な統一国家であると宣言した。
銀河帝国に限らず、どこの国でも初代国家元首の遺訓という物は絶対視されがちだ。
現在の銀河帝国は、余所の惑星と外交使節を交換する場合は
朝貢外交の形式を取り、相手国に派遣するのも「大使」ではなく「高等弁務官」である。

ミッターマイヤー「その件につきましては星間評議会の方から
 頭を下げて要請してきた形にございます。先方が折れた
 以上は、我が帝国の面目も立ちましょう」
アレク「……わかった。エンペリアスには行こう。
 ただしミッターマイヤー元帥、俺はブリュンヒルトには乗らんぞ」
ミッターマイヤー「ハッ…?」
アレク「俺は一介の旅人として列外に身を置き、
 艦隊と前後してエンペリアス星に向かう」
ミッターマイヤー「何と仰せられます!?」
マインホフ「お戯れを!!」

アレクからのとんでもない発言に、
ミッターマイヤー以下重臣たちは仰天した。

アレク「大げさな艦隊を仕立てての行幸を承知したのだ。
 一つぐらいは予の望みを叶えてくれてもよかろう」

122

***同皇宮・皇太后の執務室***

アレクの母である摂政兼皇太后ヒルデガルド(通称:ヒルダ)は、
自室に「獅子の泉(ルーヴェンブルン)の七元帥」と呼ばれる
軍の重臣たちを内々のうちに招集した。

ビッテンフェルト「ガハハハッ! いやぁ~これは面白い!
 いかにも皇帝(カイザー)がお考えになられそうな
 ことではないか!!」
メックリンガー「ビッテンフェルト、笑いごとではないぞ」
ビッテンフェルト「うむ、これは失敬…」

朝議での話を聞いて、豪放に笑いながら相槌を打つビッテンフェルト提督を、
「芸術家提督」の異名を持つメックリンガー提督が窘める。ちなみに「沈黙提督」の
異名で知られるアイゼナッハ元帥だけは現在、ETFやGショッカーの銀河帝国領内への
侵攻に対処するため出征中であり、今フェザーンにはいない。

ミュラー「よりにもよって皇帝暗殺の陰謀が
 動いているこの最中に、旗艦ブリュンヒルトから出て
 一人旅をご所望とは…」
ケスラー「無謀に過ぎる…」

暗殺計画については現在、ケスラー率いる憲兵隊が
懸命の捜査を展開しているが、未だ陰謀の核心を掴むには至っていない。

ワーレン「その暗殺計画の件について、

 陛下のお耳にはお入れしたのか?」
ミッターマイヤー「いや、まだ陛下のお耳にお入れしてはいない。
 事が事だけに迂闊な言上はできぬ」

仮に暗殺計画の陰謀が皇帝の耳に届けば、
下手をすれば噂となって外に広まりかねない。
そうなれば大混乱になるのは必定だった。
行幸を中止か延期すべしという声が高まるだろう。
一方では強硬派が、反対分子狩りに走ろうとする。
そうなってはローエングラム王朝の威信も威光も地に落ちるのだ。

ヒルダ「私は陛下が生まれてから、ずっと国政に追われ、
 母親らしい事は何一つしてあげられませんでした」
ミッターマイヤー「皇太后陛下、その事は我ら一同もお察し申し上げます」
ヒルダ「にもかかわらず、陛下は何一つ心根の曲がることなく、
 真っ直ぐ健やかな若者に育ってくれました。せめて一つくらいは
 愛する我が子の願いを叶えてあげたい。しかし皇帝たる身に私情は許されません」
ミッターマイヤー「御意…」
ヒルダ「陛下には私からお話ししてよく聞かせましょう」

一方、その頃…。

***マリーンドルフ伯爵邸***

マリーンドルフ伯フランツは皇太后ヒルダの実父であり、
現皇帝アレクの母方の祖父に当たる。先帝ラインハルトの治世では
新王朝初代の国務尚書(筆頭閣僚)を務めた。
ローエングラム王朝では旧王朝時代に存在した「帝国宰相」という官職は
事実上消滅したため、国務尚書が他国における首相兼外相に地位に相当した。

娘ヒルダがラインハルトに嫁ぐ際に、自らが帝室の外戚になる事から
宰相級の地位に留まる事を潔しとせず引退を申し出ていたが、
ラインハルトから「余人をもって代え難し」と慰留されていた。
しかし数年前にようやく内閣書記官長マインホフに後事を託して勇退。

その誠実で公明正大な人柄により今も貴族たちの中で一目置かれる人物だが、
政治の世界からは完全に遠ざかり、悠々自適の隠居生活を送っていた。

ハンス「旦那さま、皇帝陛下がお見えになられました」
フランツ「なに、陛下が!?」

家令のハンス・ステルツァーが突然の皇帝来訪を告げた事に
驚いたマリーンドルフ伯は、慌てて玄関まで出迎えに出る。

フランツ「陛下、突然のお越し、恐縮にございます」
アレク「おじいさまにはご多忙の中、いきなり押しかける形となり
 ご迷惑ではございませんでしたか?」
フランツ「私めは隠居の身。さして多忙という事はございませんが、
 まずは屋敷の中へ…」

いつまでも皇帝を玄関先に立たせておくわけにはいかず、
マリーンドルフ伯は、皇帝を書斎へと通した。

フランツ「陛下、これまでも幾度か申し上げましたが、
 私めは陛下の臣にございます。"おじいさま"などとは
 勿体ない。どうか私の事はマリーンドルフ伯とお呼びください」
アレク「今日は銀河帝国の皇帝としてではなく、
 貴方の一人の孫としてお願いに上がりました」
フランツ「…して、そのお願いとは?」
アレク「実は…」

123

***ミッターマイヤー邸***

その日の職務を終えたミッターマイヤー元帥は自邸に帰宅。
愛妻エヴァンゼリンの笑顔と、従卒ハインリッヒ・ランベルツの敬礼が出迎える。

エヴァンゼリン「大分お疲れですのね…」
ミッターマイヤー「ああ、皇帝陛下が星間評議会の最高議長と会見するために
 まもなく御自ら艦隊を率いられてエンペリアス星に向かわれる。
 その準備でな……」

この日のミッターマイヤーの心労の最大の原因とは、
その皇帝アレクが自由気ままな忍び旅を希望し出した
事によるのだが、勿論そんな事は家族といえども
おいそれと口に出せる事項ではない。

ミッターマイヤー「だがいいニュースもあるぞ。
 もうじきフェリックスが帰って来る」
ハインリッヒ「坊っちゃまが!? それは本当ですか!」
エヴァンゼリン「まあ、フェリクが…!」

エヴァンゼリンとハインリッヒは、ミッターマイヤーからの知らせに歓喜する。
フェリックス・ミッターマイヤーは、かのオスカー・フォン・ロイエンタールの忘れ形見である。
ロイエンタールの死後、ラインハルトの許しを得てミッターマイヤー夫妻がが引き取り養子として育てた。
幼年学校を卒業したフェリックスは、その後一年の日程で惑星ハイネセンに留学していたのだった。

ミッターマイヤー「今日、軍務省の方に連絡があった。
 留学の課程を無事に修了して、早ければ明日にも
 フェザーンに到着するだろう」


***フェザーン星系宙域・星間連絡船内部***

バーラト星系からの長い航海を終えて、
惑星ハイネセンと惑星フェザーンを結ぶ星間連絡船が、
大勢の乗客を乗せつつ、いよいよ終点の行き先に到着しようとしている。
客席の窓からは、徐々に近づいて大きくなる
帝都星フェザーンの姿が見えてくる。

その様子を、他の乗客たちと同様にじっと見つめている
青い瞳の青年の姿があった。

フェリク「フェザーンか。1年ぶりだな…」

124

○アレクサンデル・ジークフリート・フォン・ローエングラム→あれから17歳の青年に成長。エンペリアス星までの忍び旅を希望する。
○ヒルデガルド・フォン・ローエングラム→獅子の泉の七元帥とエンペリアス星行幸の対応策を協議。
○フランツ・フォン・マリーンドルフ→現在は政界から引退。皇帝アレクの訪問を受ける。
○ハンス・ステルツァー →皇帝アレクの訪問を主人フランツに取り次ぐ。
○マインホフ→現在は国務尚書に就任。エンペリアス星への行幸を皇帝に上奏。
○ウォルフガング・ミッターマイヤー →七元帥一同が集まり、皇太后ヒルダとエンペリアス星行幸の対応策を協議。
○エヴァンゼリン・ミッターマイヤー →夫ウォルフから、息子フェリックスが帰って来るとの知らせに喜ぶ。
○フェリックス・ミッターマイヤー →あれから18歳の青年に成長。留学先の惑星ハイネセンより帰国。
○ハインリッヒ・ランベルツ→ミッターマイヤーからフェリックスが帰って来るとの知らせに喜ぶ。
○フリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルト→七元帥一同が集まり、皇太后ヒルダとエンペリアス星行幸の対応策を協議。
○ナイトハルト・ミュラー →七元帥一同が集まり、皇太后ヒルダとエンペリアス星行幸の対応策を協議。
○エルネスト・メックリンガー →七元帥一同が集まり、皇太后ヒルダとエンペリアス星行幸の対応策を協議。
○アウグスト・ザムエル・ワーレン→七元帥一同が集まり、皇太后ヒルダとエンペリアス星行幸の対応策を協議。
○ウルリッヒ・ケスラー →七元帥一同が集まり、皇太后ヒルダとエンペリアス星行幸の対応策を協議。
○流木野サキ→剣術の鍛錬に励むアレク皇帝を温かく見守る。

【今回の新規登場】
○アレクサンデル・ジークフリート・フォン・ローエングラム(銀河英雄伝説)
 銀河帝国ローエングラム王朝初代皇帝ラインハルトと皇妃ヒルダの息子。
 誕生時は「アレク大公」と呼ばれた。父ラインハルトの崩御に伴い、
 第二代皇帝となる。黄金色の髪と青石色の瞳を持つ。

○ヒルデガルド・フォン・ローエングラム(銀河英雄伝説)
 ローエングラム王朝銀河帝国初代皇后。王朝創業の功臣の一人。
 貴族階級の出身だが、聡明で優れた政治的センスと行動力を有する。
 夫ラインハルトの死後は、摂政兼皇太后として帝国を支える。

○フランツ・フォン・マリーンドルフ(銀河英雄伝説)
 ローエングラム王朝銀河帝国初代国務尚書。
 現皇太后ヒルダのよき父親。強烈な個性とは無縁だが、
 温和で誠実、良識的な為人で知られる。公明正大な人柄で、
 優れた識見と派手ではないが深い知性と洞察力を併せ持つ人物。

○ハンス・ステルツァー(銀河英雄伝説)
 マリーンドルフ伯爵家の家令で、妻と共に主家に仕えている。ヒルダを幼少の頃から世話しており、
 ラインハルトとヒルダの婚約が決まった際には婚礼の準備が手に付かないほど感慨に耽っていた。

○マインホフ(銀河英雄伝説)
 ローエングラム王朝銀河帝国初代内閣書記官長。
 王朝創業時は最年少の閣僚であった、有能な官僚政治家。
 シルヴァーベルヒに次ぐ能吏といわれ、職務に忠実。
 やや独創的な構想力には劣るものの、処理能力、判断能力共にすぐれた人物。

○エヴァンゼリン・ミッターマイヤー(銀河英雄伝説)
 ウォルフガング・ミッターマイヤーが7年の歳月をかけて求婚した
 彼の愛妻。すみれ色の瞳とクリーム色の髪の、「燕のように身軽な」
 身のこなしの女性。

○フェリックス・ミッターマイヤー(銀河英雄伝説)
 オスカー・フォン・ロイエンタールの庶子。ロイエンタールの死後、
 ミッターマイヤー夫妻の養子として育つ。生後1年にして、第二代皇帝
 アレクサンデルに忠誠を誓った。褐色の髪と、「成層圏の青色」の瞳の持ち主。

○ハインリッヒ・ランベルツ(銀河英雄伝説)
 ロイエンタールの従卒を務めていた幼年学校生。
 ロイエンタールの最期を看取り、その後は幼いフェリックス共々
 ミッターマイヤー家に引き取られた。

○フリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルト元帥(銀河英雄伝説)
 ローエングラム王朝銀河帝国「獅子の泉(ルーヴェンブルン)の七元帥」の一人。
 「黒色槍騎兵(シュワルツ・ランツェンレイター)艦隊」を率いて勇猛の名を
 欲しいままにした勇将。熟練した指揮官であり、粗雑ながら戦略的感覚を持つ。
 熱狂的で短気で口も悪いが、奇妙に邪気がなく憎まれない。部下からも慕われている。
 尚、オーベルシュタインとはすこぶるつきの不仲であった。

○ナイトハルト・ミュラー元帥(銀河英雄伝説)
 ローエングラム王朝銀河帝国「獅子の泉(ルーヴェンブルン)の七元帥」の一人。
 帝国の元帥の中では最年少者。難局に強く、防御に卓越した手腕を有し、
 バーミリオン会戦では三度にわたり旗艦を変える戦いぶりを見せて
 ラインハルトの危機を救い、それにより「鉄壁ミュラー」の異名で呼ばれる名将。
 旗艦は「パァーツィヴァル」。

○エルネスト・メックリンガー元帥(銀河英雄伝説)
 ローエングラム王朝銀河帝国「獅子の泉(ルーヴェンブルン)の七元帥」の一人。
 広い視野で戦局全体を見渡し、状況に合わせて必要な兵力を配置、投入できる
 戦略家タイプの軍人。私生活においては水彩画家・散文詩人として名声があり、
 「文人提督」または「芸術家提督」の異名をとる。

○アウグスト・ザムエル・ワーレン元帥(銀河英雄伝説)
 ローエングラム王朝銀河帝国「獅子の泉(ルーヴェンブルン)の七元帥」の一人。
 勇気と用兵術の均衡が取れた良将。質実剛健な性格で、兵士からの信頼も厚い。
 地球教徒の暗殺者に襲われて左腕を失い、現在は義手を使用している。

○ウルリッヒ・ケスラー元帥(銀河英雄伝説)
 ローエングラム王朝銀河帝国「獅子の泉(ルーヴェンブルン)の七元帥」の一人。
 軍人としての才能と、軍官僚としての才覚を併せ持ち、主として治安関係で活躍。
 首都防衛司令官及び憲兵総監という激職を兼務した。20歳以上も年下のマリーカ・
 フォン・フォイエルバッハと結婚。

○流木野サキ(革命機ヴァルヴレイヴ)
 咲森学園の高校一年生。ヴァルヴレイヴⅣのパイロット。
 冷めた性格で、他人との接触を嫌った元アイドル。
 同じ「カミツキ」である時縞ハルトに急接近した。
 200年後には、モジュール77から始まった第三銀河帝国の一員となっており、
 落ち着いた物腰で母性的な人物になっている。帝国の歴史について知る者として、
 帝国暦211年の時点では皇子へ帝国の成り立ちを教えている。その3年後の帝国暦214年には
 黄金のヴァルヴレイヴIVを駆って可変メカを操る中年男性と戦っており、
 とある人物との約束を守り続けているらしい。その男からは「黄金の七人」と呼ばれている。


『二人皇帝、エンペリアスを目指す』-3

作者・ティアラロイド

125

***帝都星フェザーン・宇宙港***

着陸・停泊している大型星間連絡船からハッチが開く。
出迎えに来ていたミッターマイヤー家の従卒兼執事ハインリッヒ・ランベルツは、
一斉に降りて来た大勢の乗客たちの中から、お目当ての人物を見つけて駆け寄る。
ミッターマイヤー家の一人息子、フェリックス・ミッターマイヤー銀河帝国軍少尉である。

ハインリッヒ「坊っちゃまァァ*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(n‘∀‘)η゚・*:.。..。.:*・゜゚・* !!!!!」
フェリク「コラッ、ハインリッヒ! いきなり抱きつくな!!
 周囲が見てるだろーが!!(///)」

感涙して抱きついて来たハインリッヒ・ランベルツに、
フェリックスは赤面して困惑しつつも、とにかくハインリッヒを落ちつかせる。

フェリク「ただいま、ハインリッヒ」
ハインリッヒ「おかえりなさいませ。こんなにご立派になられて…(涙。
 亡きロイエンタール元帥がご覧になられたら、どれほど
 お喜びになられる事か!」
フェリク「ロイエンタール元帥か…」

オスカー・フォン・ロイエンタールはフェリックスの実父である。
養父ミッターマイヤーからも、実父がどれだけ立派な男だったか
という事については幼少の頃より耳が痛くなるほど聞かされて育った
フェリックスだったが、赤子の頃に死に別れた実の父親のことなど、
当然ながら本人の記憶にはない。養父はいずれ自分に実父の名跡を
継がせるつもりでいるらしいが、未だ自分には今一つピンときてはいないのであった。

ハインリッヒ「邸宅へ戻られますか?」
フェリク「いや、獅子の泉(ルーヴェンブルン)に向かう。
 皇帝陛下に帰国の報告をしなければならない。
 親父ともそこで会えるしな」


***皇宮・獅子の泉(ルーヴェンブルン)***

皇宮に参内したフェリックス・ミッターマイヤー少尉は、
皇帝アレクに謁見し、留学からの帰国の報告をした。

アレク「ミッターマイヤー少尉、1年間の留学ご苦労であった」
フェリク「皇帝陛下におかせられましてはご機嫌麗しく
 恐悦至極に存じます。陛下のご威光をもちまして、
 本日無事に帰国致しましてございます」
アレク「本日をもって卿を中尉に任官する」
フェリク「ありがたき幸せ。今後もこれまで以上に
 帝国と陛下のために忠勤に励む所存にございます」
アレク「惑星ハイネセンでは、かの名将ヤン・ウェンリーの
 英雄譚などもよく聞いたであろう。積もる話を聞きたい。
 後で予の私室まで参れ」
フェリク「畏まりました」

下座の一同が一礼する中、皇帝アレクは玉座より退席した。

ミッターマイヤー「フェリックス!」
フェリク「父さ…じゃなかった。ミッターマイヤー元帥、
 そして提督方もご無沙汰しております」
ミュラー「ともかくは中尉昇格おめでとう」
フェリク「ありがとうございます」
ビッテンフェルト「ハハハ…また一段と大きくなって
 帰ってきおったな! 結構結構!」
フェリク「ビッテンフェルト提督、もう自分は18です。
 子供みたいにからかうのはおやめください…(///)」
ビッテンフェルト「照れるな照れるな!」
メックリンガー「ますますロイエンタール元帥に似て来たではないか。
 なあミッターマイヤー元帥」
ミッターマイヤー「ああ、我が家の自慢の息子だ!」
フェリク「………」
ミュラー「……??」

メックリンガーの口からロイエンタールの名前が出た時、
一瞬だけだがフェリックスが複雑な表情をしたのを
見てとったナイトハルト・ミュラーは、皇宮の廊下で
フェリックスを呼びとめた。

ミュラー「ミッターマイヤー中尉!」
フェリク「―!? これはミュラー提督」

突然ミュラーに呼び止められて振り返った
フェリックスは上官に敬礼する。

ミュラー「少し話をしたいのだがよいか?」
フェリク「はい…??」

126

将校専用のサロンで、フェリックスはミュラーと
二人きりで話をした。

フェリク「話とは何でありましょうか?」
ミュラー「ふと気になったのだが、
 もしかして卿は、実の御父上と比べられる事を
 不快に思っているのではないのかと思ってな…」
フェリク「その事でしたか…」

フェリックスはミュラーに淡々と自身の心情を
素直に吐露した。

フェリク「別に実の父と比較される事に嫌悪を
 感じているわけではありません。周囲から偉大な父と
 常に比べられる苦労はアレク陛下の比ではないでしょう」
ミュラー「うむ…」

アレクもフェリックスも、記録映像か伝聞の中でしか
実の父親のことを知らない。しかしフェリックスは
自分に惜しみない愛を注いでくれた養父母の元、
幸運にして温かい家庭環境下で育った。
それに対してアレク皇帝は、実母である皇太后ヒルダが
普段から摂政としての政務に追われ、一般家庭に比べれば
寂しい日常を幼少の頃より送って来たことは容易に想像できる。

ここで少し話は逸れるが…、
そんなアレクが心根が曲がることなく真っ直ぐな青年に
成長できたのは、ヒルダたっての願いで乳母役を引き受けた
伯母のアンネローゼ大公妃による心血を注いだ養育と、
流木野サキら傅役たちがアレク幼少の頃より友人のように
親しみを込めて少年皇帝に接し続けた事が大きかったろう。

――話を元に戻す。
オスカー・フォン・ロイエンタールは本人にとっては
不本意ながらも一度は皇帝ラインハルトに叛く形で逆臣となったが、
彼の死の直後にすぐラインハルト帝の勅命により名誉は回復され、
墓の下で眠る現在は元帥に復位していた。

フェリク「オスカー・フォン・ロイエンタールという人物が
 単に建国の功臣や名将だったというだけでなく、友誼にも
 厚い男だったというのは義父からよく聞かされて知っています。
 ただ、そうは言われても自分には実父の記憶がある訳ではありません」
ミュラー「卿がまだ乳飲み子だった頃の話だ。無理もない」
フェリク「実父の事は義父同様に尊敬しています。ただ、
 実父の話題を出されても今一実感が湧かないのです。
 そんな自分がもどかしくて…」
ミュラー「卿は幸運にも偉大な男を二人も父に持った。
 それは誇るべきことだ。だがそれはそれとして、卿は卿自身だ。
 気にせずに卿の選んだ道を突き進む事だ」
フェリク「ありがとうございます。ミュラー提督」

ミュラーの言葉のおかげで何か吹っ切れたような感じがした
フェリックスは、深々と一礼して別れた。

127

***同皇宮内・皇帝の私室***

フェリク「よっ、久しぶりだったな連坊。
 元気にしてたか?」
連坊「ミッターマイヤー中尉、陛下は先程から
 中でお待ちです」

この金髪の青年である近侍の青年の名は連坊小路といい、
先帝ラインハルトの治世に帝国に受け入れたジオールの民の末裔であり、
大神オーディンの教母・連坊小路アキラとは遠縁にあたるらしい。
アレクやフェリックスは、昔からこの青年のことを「連坊」と呼んでいる。

フェリク「陛下のご機嫌は…?」
連坊「"フェリクはまだかまだか"と苛立っておられるようですよ…」

お互いにドアの向こう側の相手に聞かれぬよう、
ひそひそと小声で話すフェリックスと連坊小路。
フェリックスは緊張して恐る恐るドアをノックする。

フェリク「陛下、フェリックス・ミッターマイヤー中尉、
 お召しによりまかり越しました」
アレク「入れ!」

ドアを開けて中に入るフェリックス。
部屋の中央では、ソファにアレクが座っていた。

フェリク「陛下…」
アレク「もっと近こう寄れ」

アレクに近づくフェリックス。するといきなりアレクは
フェリックスにヘッドロックをかまして来た。
一方のフェリックスも驚いたり嫌がったりする様子はなく、
むしろ腹の底から笑いながらいちゃつくように抵抗する
そぶりをしてみせる。

アレク「コノコノコノッ! 1年も待たせやがって」
フェリク「イテテテッ! コラよせよッ!」

そんな少年二人の男同士の友情のどつきあいがしばらく続いた。
フェリックスが惑星ハイネセンに留学していた二年もの間、
親友の帰還をずっと首を長くして待ち侘びていた皇帝アレク。
このプライベートの空間の中に限って、
もはやそこには身分の上下の別は存在していなかった。

アレク「おかえり、フェリックス」
フェリク「ただいま、アレク」

128

フェリク「親父から聞いたぞ」
アレク「…ん? 何の話だ」
フェリク「とぼけるなよ。エンペリアスまで
 艦隊を抜けて一人旅をするだなんて、無謀にもほどがある!」
アレク「ああ、その話か…。ちょうどいい。
 手間が省ける。今その話をしようと思っていたところなんだ」

アレクは、もしやフェリックスが父親から
自分を説得するようにと言われたのではないかと訝しむ。
フェリックスはアレクより一歳年上であり、昔から何かと
まるで兄貴や先輩のように上から目線で自分に忠告してくる。
もちろんそれは大切な一歳年下の親友に対するフェリックスの
保護欲(悪く言えば兄貴風)から来ている事は理解していたが、僅か一歳だけ歳が違うだけで
弟分扱いされているようで、アレクにとっては鼻持ちならない時がある。
皇帝という重責ある地位におかれているアレクにとって、
比較的自由に行動できる立場にあるフェリックスの事が
正直羨ましいという側面もきっとあるのだろう。

アレク「ミッターマイヤー元帥から俺に翻意するように
 説得しろと言われたのか?」
フェリク「違うよ。親父はそういう裏からの根回しは
 昔からあまり好きな方じゃない」
アレク「確かにそうだ」
フェリク「だけど俺はやめてほしいと思っている」
アレク「なんでだ?」

もし、一人旅の途中でアレクに万一の事があれば、
それだけでローエングラム王朝の血筋は途絶える。
ただでさえ現在の宇宙は再び乱世の様相を呈しているのだ。
その混乱の影響は計り知れない。

フェリク「今の外宇宙がどれだけ危険か理解しているのか?
 俺は万一に不測の事態でお前を失うのもいやだし、
 お前が自由気ままの個人的な我儘で命を落とした愚帝と
 後世の歴史に記されるのもゴメンだ!」
アレク「誰から何と言われようと、俺の気持ちは
 変わらないぞ」
フェリク「アレク!」

アレクとフェリックスが口論していると、
そこへ連坊小路が部屋の中に何かを伝えに入って来た。

連坊「皇帝陛下、皇太后陛下がお呼びでございます」

その言葉に、待ってましたとばかりにアレクは飛び上がる。
きっと母は自分に一人旅を思いとどまるよう説き伏せるつもりなのだ。

アレク「ついに来たか。そこで見ていろフェリク。
 まずは第一関門を突破しないとな」
フェリク「アレク…」

皇太后ヒルダに呼ばれたアレク皇帝。
果たしてその説得のための勝算とは…?

129

○アレクサンデル・ジークフリード・フォン・ローエングラム→親友フェリックスと二年ぶりに直接再会。
○フェリックス・ミッターマイヤー →帝都フェザーンに帰国。中尉に昇進。親友アレク皇帝と二年ぶりに直接再会。
○ハインリッヒ・ランベルツ→フェリックスを宇宙港まで出迎える。
○ウォルフガング・ミッターマイヤー →フェリックスの帰国と中尉任官と祝う。
○フリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルト→フェリックスの帰国と中尉任官と祝う。
○ナイトハルト・ミュラー →フェリックスの帰国と中尉任官と祝う。その後、彼の悩みを聞き、アドバイスする。
○エルネスト・メックリンガー →フェリックスの帰国と中尉任官と祝う。
○連坊小路→ローエングラム王朝の宮廷に近侍として仕えている。

【今回の新規登場】
○連坊小路(革命機ヴァルヴレイヴ)
 200年後の第三銀河帝国で登場する、連坊小路サトミそっくりの青年。
 皇子からは「連坊」というニックネームで呼ばれているが、本人はそれを不服に思っている。
 小説版エピローグでの連坊小路アキラの独白から、サトミがマギウス化して不老不死となった訳ではなく、別人であることが示唆されているため、おそらく子孫なのだと思われる。アキラの言によると、
 いつも騒がしい性格らしい。


『二人皇帝、エンペリアスを目指す』-4

作者・ティアラロイド

130

***皇宮・獅子の泉(ルーヴェンブルン) 皇太后の居室***

ヒルダ「それはなりません」
アレク「遅まきながら、皇帝の地位に胡坐をかいて
 タダ飯を食らっている己の愚かさに気がついたのです」
ヒルダ「陛下…」

アレクは母ヒルダに、ここ一年の間の惑星ハイネセン留学中の
フェリックスとの超光速通信のやり取りで得た心境を語った。
日々フェリックスから聞かされたハイネセンでの体験談は、
それまで皇宮の玉座からあまり離れた事のないアレクにとっては
どれも新鮮なものばかりだったのだ。

アレク「私はさも博識のような顔をしていながら、上にも通ぜず、
 下々の事も解らぬ、甘えん坊のおめでたい男だったと思い知ったのです」
ヒルダ「………」
アレク「何卒私の我儘をお聞き届けください」
ヒルダ「いいえなりません」
アレク「母上!」
ヒルダ「よいですか陛下、建国帝ラインハルト様のお血筋は
 今や貴方一人だけ。万一という時、帝国にとっては陛下だけが
 頼みなのですよ」
アレク「なにを不吉な事を。いざとなればクォーツ・クリスティアも
 いるではありませんか」

クォーツ・クリスティアとは、ローエングラム家の前身であるミューゼル家の遠縁に当たる少女で、
銀河帝国が認めた帝国お墨付きの宇宙海賊の証「金色の髑髏」を肩につける事を許された、
帝国直属の私掠船海賊だ。つい先頃も、帝国中央の軍需企業が試作した重力制御機能搭載の
最新型戦艦「機動戦艦グランドクロス試作α号」を駆って、銀河系辺境の鯨座宮たう星系にて
好き勝手に暴れていたところを、ヒルダが鉄の髭に命じて連れ戻させたばかりだ。
それ以来、近頃の彼女は一応表向きは大人しくしているらしいが…。

ヒルダ「貴方とクォーツ・クリスティアとでは必然的に立場が違います」
アレク「もしどうしてもお聞き入れいただけないのであれば…」
ヒルダ「聞き入れないとすれば、なんとするのです…?」
アレク「………」
ヒルダ「………」

アレクは無言のまま立ち上がり、構わず退室しようとする。

ヒルダ「お待ちなさい、アレク!」
アレク「…!? ……母上、母上から"アレク"と名前で呼ばれるのは
 何年ぶりでしょうね?」
ヒルダ「……!!」

そう指摘されたヒルダは、息子アレクの後ろ姿を
ただじっと見送るしかできなかった…。

侍女「皇太后陛下に申し上げます。ただ今、マリーンドルフ伯爵フランツ様が
 お成りにございます。至急皇太后陛下にお目にかかりたいと…」
ヒルダ「お父様が…? 直ちにこの部屋にお通ししてください」
侍女「畏まりました」

131

政界より退いて隠居生活に入って以来、長らくご無沙汰であった
実父フランツの訪問を嬉しくも思うも怪訝にも感じたヒルダだが、
ともかくすぐに面会に応じた。

フランツ「皇太后陛下におかせられましてはご機嫌麗しく
 恐悦至極に――」
ヒルダ「お父様、今この場には私たち二人しかおりませんよ。
 どうかもう少し楽になさってください」
フランツ「…ハハハ。実を言うと私もこういう堅苦しいのは苦手でね…」

娘ヒルダの言で、フランツは畏まっていた姿勢を崩し、
気を抜いた楽な体勢でソファに腰をかける。

フランツ「陛下と何かあったのかね?」
ヒルダ「ええ、まあ…。わかりますかお父様」
フランツ「そりゃわかるとも。私とお前とは長年
 父娘(おやこ)をやってきてるんだからね」
ヒルダ「はあ…。それで、本日の急なお越しの趣は?」
フランツ「実はその事なんだがね。どうだろう。
 この際、陛下の望みを聞き届けて差し上げては…」

父フランツの言葉にヒルダはびっくりした。

ヒルダ「お父様はご存じだったのですか!?
 あの子がお忍びの旅に出たがっていると!」
フランツ「実は昨日、陛下がうちにお見えになられたんだよ」

フランツはヒルダに、昨日アレクが密かにマリーンドルフ伯爵邸を訪問して
熱心に自分を説き伏せた様子を話してみせた。

ヒルダ「あの子がそんな事を…」
フランツ「ヒルダ、もう陛下…いや、アレクも子供ではないよ。
 直に自分の目で見て、肌に触れて見聞を広めるのは決して悪い事ではない」
ヒルダ「お父様までそんなことを…」
フランツ「まずは宇宙を好きなように回らせてあげなさい。
 そのうちに陛下の気も変わるかもしれない」
ヒルダ「………」

フランツが帰って行った後、ヒルダは一人物思いにふけっていた。
やはり我が子の願いを聞き届けてやるべきなのだろうか、
そして、こんな時に亡き夫ラインハルトならばどうしたであろうかと…。

侍女「皇太后陛下、グリューネワルト大公妃殿下より超光速通信が入っております」
ヒルダ「アンネローゼ様が!?」

132

アンネローゼ・フォン・グリューネワルト大公妃は
先帝ラインハルトの実の姉であり、ヒルダからは義理の姉、
現皇帝アレクからは伯母に当たる人物である。
数少ないローエングラム皇族の最年長者として重きを成す存在であり、
帝国の政務から離れられないヒルダに代わって乳母の役割を引き受け、
幼き皇帝アレクの養育に腐心してきた。そしてアレクが無事幼年学校を卒業したのを見届けると、
今は再び帝都星フェザーンから遠く離れた旧帝都星オーディンのフロイデン山岳地帯の
山荘に隠棲している。

ヒルダ「これは大公妃殿下」
アンネローゼ@通信「皇太后陛下におかれては、
 政務ご多忙の中まことに恐縮です」

端末のモニターには、アンネローゼの
聡明ながらも穏やかな笑顔に映る。

アンネローゼ@通信「アレク陛下はその後お健やかにお過ごしですか」
ヒルダ「はい、おかげさまをもちまして」
アンネローゼ@通信「実は今日はその事で少し貴女とお話が…」
ヒルダ「…??」

このアンネローゼの言葉を聞いた途端、ヒルダには何か予感のようなものがした。
そしてその予感はすぐに的中していたと解る。

アンネローゼ@通信「私からもお願い申します。アレク陛下の
 たっての願いをどうか聞き届けてあげる訳には参りませんか?」
ヒルダ「アンネローゼ様!?」

銀河帝国の最高権力者である摂政兼皇太后ヒルデガルドが
頭が上がらない人物と言えば、いかに宇宙広しと言えどもこの世に二人しかいないだろう。
それはヒルダの父マリーンドルフ伯フランツと、小姑に当たるアンネローゼだ。
アレクは今日の事を見越して、祖父マリーンドルフ伯のみならず、
伯母のアンネローゼにも事前に根回しをして両人を味方につけていたのだ。
毎日を同じ皇宮で暮らしながら、実質的には離れて生活していると言ってもいい
ヒルダとアレクの母子だが、アレクは母親の事もよく見て観察していたのである。

アンネローゼ@通信「陛下は…いいえ、あの子は今、自分の進むべき道に迷っています。
 宇宙の現状を直に知れば、自分の果たすべき役割も見えて来るはずです」
ヒルダ「アンネローゼ様…」
アンネローゼ@通信「愛する我が子を心配するお気持ちは分かります。
 ですが"獅子は我が子を谷底に突き落とす"とも申します。
 今ラインハルトが生きていたら、きっとそうしたことでしょう」


***メモリアル・コア***

惑星フェザーン上空の宙域に浮かぶ「旧モジュール77」――
――通称「メモリアル・コア」と呼ばれる区画には、
銀河帝国建国の礎となった、今は亡き英雄たちの像が安置されている。

ショーコ「………」

赤いパイロットスーツに身を包んだ少女――いや、正確に表現するならば
少女の外見をした女性のマギウス、指南ショーコにとって、
その中央に立った銅像を眺めるのが毎日の日課である。

ヒルダ「やはり今日もここにいましたか…」
ショーコ「ヒルダさま…?」

アンネローゼとの通信会話を終えたばかりのヒルダは、
今までのいきさつを全てショーコに話す。

遥か昔にジオール亡命政府の総理大臣を務め、
マギウスとして常人のヒューマノイドとはかけ離れた
長い年月を生きて来たショーコは、帝国皇太后ヒルダの
信頼のおける影の相談役でもあった。

ショーコ「皇帝陛下の望むがままになされませ」

それが皇太后の諮問に対する、指南ショーコの明快な答えだった。

ヒルダ「やはり貴女もそう思いますか…」
ショーコ「この宇宙には友好的な種族もいれば、
 極めて好戦的な種族もいます。今まで私たちは
 友達を増やしたり、敵を増やしたり、喧嘩の仲裁を
 しながら生きて来ました」
ヒルダ「………」
ショーコ「アレク陛下が旅に出られ、多くの人たちと出会いと別れを
 経験されるのは、きっとプラスになると思いますよ」

その後フェザーンの皇宮へと戻ったヒルダは、
侍女を呼びつけて言伝を命じた。

ヒルダ「皇帝陛下に言伝を頼みます。明朝、久しぶりに朝食を共にしたいと」

133

翌朝、アレクは母皇太后ヒルダに呼ばれて、朝食の席を共にした。
「銀河系を統べる皇帝一家の朝食」といっても、酒池肉林の贅を凝らした
前ゴールデンバウム王朝時代に比べれば、驚くほどに少量質素な食事だ。

ヒルダはスープを一口した後、スプーンを置いて
テーブル向かいに座る息子アレクに語りかける。

ヒルダ「陛下、未だにお気持ちは変わりませんか?」
アレク「ええ、勿論です」

アレクはやや意地っ張りのように、母からの問いに応える。
ヒルダは一度観念したように溜息をつくと、息子に顔を向けて話し始めた。

ヒルダ「どうやら私の負けのようですね…」
アレク「母上、それでは!?」
ヒルダ「忍び旅の件、認める事にします」
アレク「本当ですか!? …ハハハ!!
 やったあああっ!!!」

アレクは嬉しさのあまり椅子から飛び上がる。
まさにその姿は「銀河帝国の絶対君主」ではなく、
「年相応の少年」の姿であった。

ヒルダ「陛下、侍女たちが見ていますよ」
アレク「あ、これは失礼…(///)」

アレクは恥ずかしそうに再び席に着く。
息子の諸星漫遊の旅を許すことにした母ヒルダ。
きっとそこには、自分を手玉に取るまでに成長した
息子に対する密かな喜びもあるのだろう。

ヒルダ「ただし、条件があります」
アレク「条件とは?」
ヒルダ「一人旅だけは認められません。
 貴方には選りすぐりの護衛をつけます。
 それでよろしいですね」

134

今朝の皇帝母子の朝食の一時でのやりとりは、
すぐに七元帥にも伝わった。

ビッテンフェルト「ハハハハハ!!! これは痛快ではないか。
 あの幼かった陛下が今では皇太后を見事に出し抜かれるまでに
 ご成長あそばされたか!」
ミッターマイヤー「そこでビッテンフェルト、卿に頼みたい事があるのだ」
ビッテンフェルト「おっと筆頭元帥、それ以上は申されるな!
 いかに皇帝陛下の仰せだとて、お一人で旅をさせるわけにはいかん。
 不肖このビッテンフェルト、黒色槍騎兵(シュワルツ・ランツェン
 レイター)を率いて一命に代えても陛下をお守りし――」
ケスラー「ビッテンフェルト元帥、それではお忍びの旅にはならぬだろう」
ビッテンフェルト「ううむ~確かに…!」

ミッターマイヤーは少し苦笑しつつも、
その歯に衣着せぬ物言いから"帝国のご意見番"とまで
呼ばれているビッテンフェルトに別の事を依頼する。

ミッターマイヤー「気がかりなのはむしろ、主のおらぬ旗艦ブリュンヒルトの方だ。
 皇帝の座乗艦を空っぽにしておく訳にもいくまい。そこで皇帝陛下に
 年恰好の似た者を影武者として、ブリュンヒルトに乗せる事にした」
ビッテンフェルト「なんと、影武者を?」
ミッターマイヤー「ビッテンフェルト、その人選を卿に頼みたい。
 瓜二つとまでは言わないが、なるべく陛下に年恰好と声色が
 よく似た男をな。言うまでもないが、あくまでも極秘のうちに…」

早速、「皇帝の影武者探し」という真の目的は伏せた上で、
別の適当な名目を掲げてのオーディションが開催された。
軍属・民間を問わず、幅広く応募者が集められたのだが…。

ビッテンフェルト「…これで15人目か。無理だ。アレク陛下に
 そっくりな男などいるはずがないわ」

影武者の人選は思いのほか難航し、
あのビッテンフェルトが珍しく弱音を吐いている。

ビッテンフェルト「はい、次の者!」

次の順番で入って来たのは、燃え上がる炎のような戦士風の外見と、
学者か発明家のような服装をした二人組のエイリアンだった。

ブレアード「よっ!」
サイクリード「よ、よろしくお願いします…」

この二人、かつて宇宙海賊デスカルに所属していた三将軍のうちの二人、
火将軍ブレアードと風将軍サイクリードである。
ネオデスカルとの最終決戦を経て安藤拓人達と別れたのち、
広い宇宙を旅していた三将軍だったが、今回の選考に合格すれば
銀河帝国に仕官できるという噂を聞きつけてやって来たのだった。

二人の姿を見た途端、ビッテンフェルトは目を丸くしたかと思うと、
烈火のごとく係員に対して激怒する。彼らのようなエイリアンの外見では、
とてもヒューマノイド型の皇帝の影武者には不適格であろう事は
誰の目にも明らかだったからだ。

ビッテンフェルト「バッカもん!! 誰だ!!
 この場にエイリアンなんぞを入れたのは!?」
ブレアード「おいおい、長い時間列に並ばせて
 順番を待たせておいて、その言い方はねえだろ!」
ビッテンフェルト「あーすまなかったな。交通費なら支給するから、
 すぐに帰ってくれ」

いかにも厄介払いをしたがりそうな態度のビッテンフェルトに、
今度はブレアードの方が露骨に不快感を示した。

ブレアード「ケッ! 邪魔したな。あばよ!!
 帰るぞサイクリード!!」
サイクリード「あっ、待ってよ~~!!」
ブレアード「とんだ無駄足だったぜ! ぶつぶつ……」

ビッテンフェルトは疲れたように溜息をついた。

ビッテンフェルト「ハァ~……」
連坊「大丈夫ですか提督。お茶でもおつぎしましょうか?」
ビッテンフェルト「ああ頼む。全く、この俺ともあろう者が
 胃薬に頼る日が来ようとはな…」

影武者の選考事務作業の手伝いに皇宮から派遣されていた
連坊小路にお茶を入れてもらうビッテンフェルト。

ビッテンフェルト「………」

お茶の入ったカップに口をつけたビッテンフェルトは、
中身をぐいぐい飲み干しながら何を思ったのか、
まじまじと連坊小路の顔を見つめている。

連坊「あのぅ…提督? 僕の顔に何かついてますか」
ビッテンフェルト「これは盲点だった。灯台元暗しとはまさにこの事!
 適任者がこんな近くにいたとはな!!」
連坊「……は??」

135

○アレクサンデル・ジーグフリード・フォン・ローエングラム→事前の根回しが功を奏し、母ヒルダから旅の許しをもらう。
○ビデガルド・フォン・ローエングラム→息子アレクの用意周到な根回しに根負けし、条件付きで忍び旅に出る事を許す。
○フランツ・フォン・マリーンドルフ→アレク皇帝が旅に出れるよう、皇太后ヒルダを説得する。
○アンネローゼ・フォン・グリューネワルト→アレク皇帝が旅に出れるよう、皇太后ヒルダを説得する。
○ウォルフガング・ミッターマイヤー →アレク皇帝の影武者を選定するよう、ビッテンフェルトに依頼する。
○フリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルト→アレク皇帝の影武者を選定するよう、ミッターマイヤーから依頼される。
○指南ショーコ→アレク皇帝が旅に出れるよう、皇太后ヒルダからの相談に答える。
○連坊小路→ビッテンフェルトの皇帝影武者選考作業を手伝う。
○火将軍ブレアード→皇帝影武者選考に応募・参加するが、門前払いに近い形で即失格。
○風将軍サイクリード→皇帝影武者選考に応募・参加するが、門前払いに近い形で即失格。

【今回の新規登場】
○アンネローゼ・フォン・グリューネワルト(銀河英雄伝説)
 銀河帝国ローエングラム王朝初代皇帝ラインハルトの姉。
 旧ゴールデンバウム王朝時代に当時の皇帝フリードリヒ4世の寵妃となり、
 弟の出世を影から支えた。弟ラインハルトの即位に伴って大公妃に叙せられる。
 聡明で気丈ではあるが、万事に控えめで穏やかな性格。ラインハルトの人格形成と
 キルヒアイスの人生に多大なる影響を及ぼした存在。

○指南ショーコ(革命機ヴァルヴレイヴ)
 モジュール77の咲森学園2年生。陸上部所属。

 総理大臣選挙で当選し、新生ジオールの内閣総理大臣に就任。
 時縞ハルトの幼馴染で同級生にして、ジオール総理大臣・指南リュージを父に持つ。
 学園の独立を宣言して生徒一同の支持を得るなど、大胆さやカリスマ性も持ち合わせている。
 モジュール77奪還作戦終了後、ハルトとは最後まで仲直りできぬまま永遠に別れることとなり、
 連坊小路アキラから渡された彼のヘルメットを抱きながら号泣する。
 200年後、第三銀河帝国にヴァルヴレイヴ用と思われる赤いパイロットスーツに身を包んだ彼女が
 変わらぬ姿で存在することから、マギウスとなったことが示唆されている。遭遇した異星人(第53生命体)に銃口を向けられながらも、臆することなくと手を差し伸べるという結末で締めくくられた。

○火将軍ブレアード(超星艦隊セイザーX)
 宇宙海賊デスカル三将軍の一人で、火の属性を持つ。非常に短気な性格で、「面倒くせえ」が口癖。
 一途で熱血漢。ライオセイザー=安藤拓人とはライバル関係だが、彼とのコンビネーションは息がピッタリである。
 一時期はセイザーXに捕獲され安藤家で洗濯物を干したりしていたが、後にガレイドに反抗的なジャッカルと行動を共にする。
 その後セイザーXの仲間となり、流浪の末それまでの人生の中で唯一心休まった拓人の家に流れ着き居候する。戦いが終わった後、アクアルやサイクリードと共に別の宇宙へと旅立った。

武器は長剣「ファイブレード」。

○風将軍サイクリード(超星艦隊セイザーX)
 宇宙海賊デスカル三将軍の一人で、風の属性を持つ。知的なようで意外にも三将軍のボケ担当。
 臆病者で、自分から戦おうとしないが発明家としては一流で、ネオデスカルのメンバーからも高く評価されていた。
 敵にも情けを掛ける戦いに向かない性格。実はネオデスカルのトップは彼の直系の子孫で、
 そのためネオデスカルの指導部からは表向き祭り上げられ、催眠装置で好戦的な性格になってしまう。
 終盤で捕らえられて嘗てのブレアード同様安藤家の庭に軟禁されるも、いつまで経っても元に戻らないことに業を煮やしたブレアードと取っ組み合いになった末、前述の催眠装置を外されて正気を取り戻した。
 使用武器は扇状の「ファンクリーダー」。


『二人皇帝、エンペリアスを目指す』-5

作者・ティアラロイド

136

***軍務省・軍務尚書執務室***

連坊「Σ(゚∇゚ ;)エッ!?…僕が皇帝陛下の影武者をーっ!!」

すぐに軍務省のミッターマイヤーの執務室に強引に連れてこられた
連坊小路は、皇帝の影武者の任務について説明された。

ミッターマイヤー「ビッテンフェルトの眼鏡にかなったのであれば、
 間違いはあるまい。お前も長年近侍として陛下のお側近くに
 お仕えしていたのだ。皇帝としての礼儀作法は勿論のこと、
 陛下の日頃の癖や身なり、そぶりも心得ておろう」
ビッテンフェルト「大事を明かしたからには、引き受けてもらうぞ!」
連坊「ちょ、ちょっと待ってください!!」

困惑気味の連坊小路は必死に抗弁する。

ミッターマイヤー「断るのか?」
連坊「当たり前ですよ! 僕に陛下の影武者なんか務まる
 わけないじゃありませんか。そりゃあ、僕たちジオールの民を
 受け入れてくださった先帝ラインハルト様への恩義はありますが、
 絶対に無理です!!」

必死に断る連坊だったが、両眼に真っ赤な炎をちらつかせた
ビッテンフェルトが連坊の襟首を掴んで迫る。

ビッテンフェルト「わかっているだろうな連坊、お前には地位に伴う責任があるのだ。
 何も成し得ぬというのなら、一介の書生も同じこと。期待には応えて
 もらえるだろうなあ~!?」
連坊「ビッテンフェルト提督、顔が近い…近いですぅ……!!
 (((((((( ;゚Д゚)))))))ガクガクブルブルガタガタブルガタガクガクガクガクガク」

みっともなく子供のように涙声で震えながら尚も抵抗を試みる連坊だったが、
その時、尚書執務室に二人の女性が入って来た。
一人は流木野サキ、そして今一人は大神オーディンの教母を務める連坊小路アキラである。
アキラは連坊の先祖の連坊小路サトミの妹に当たる。

サキ「………」
アキラ「………」

連坊「サキ様ぁ! アキラ様ぁ!!」

二人の姿を見た連坊は感謝した。てっきり自分に味方してくれるものと
ばかり思っていたからだ。しかしその甘い期待はあっさりと裏切られることになる。

137

アキラ「ぐだぐだ言ってないで行ってきな!」
連坊「へ…?」
ミッターマイヤー「二人は俺がここに呼んだのだ。一緒にお前を説得してもらうためにな」
サキ「今こそ我々ジオールの民が先帝ラインハルト様のご恩に報いる時よ。
 影武者の役目、しっかりと務めて来てね♪」
連坊「そ、そんなぁ…(泣」

サキとアキラに助けを求めようと思ったら、
かえって止めを刺されてしまった連坊。

ビッテンフェルト「教母殿たちの許可は取った! もう文句は言わせんぞ!
 それではさっそく支度だ!!」
連坊「ひえええええっっっ!!!!!」

哀れ連坊はビッテンフェルトに強引に引っ張られて
どこかへ連れて行かれてしまった。

アキラ「………」
サキ「どうしたの?」
アキラ「相変わらず騒がしい奴だなと思って…。
 なんだか年々お兄ちゃんに似て来てる。
 今でもたまに連坊の事を"お兄ちゃん"って
 間違えて呼びそうになる事があるよ」


***皇宮・獅子の泉(ルーヴェンブルン)***

さっそく皇帝の礼服に着替えさせられた連坊は、
謁見の間で皇帝アレクサンデルと対面した。

アレク「なかなか似合ってるじゃないか。
 しっかり頼むぞ相棒!」
連坊「よ、よろしくお願いいたします…」
アレク「あとはよきに計らえ。ハハハハハ!!!」

アレクは連坊の姿を見て満足の意を示す。

ビッテンフェルト「さて、出発までにお前を皇帝陛下らしく
 仕立て上げねばならん。上手く行ったら拍手ご喝采だ!」
連坊「お、お手柔らかに…(汗」

138

皇宮の庭園を二人で歩きながら話をする
アレク皇帝とミッターマイヤー元帥。

アレク「本来であれば一人旅が望みだが、母上との約束だ。
 それに元々それを認める卿たちでもあるまい」
ミッターマイヤー「ご推察、恐れ入ります」
アレク「フェリックスは絶対一緒に連れて行くぞ。
 よもや異存はないな?」
ミッターマイヤー「わが愚息めでよろしければ、光栄の至り。
 どうぞどこへなりともお連れくださいませ」
アレク「フラウ・ミッターマイヤーにまた寂しい思いをさせてしまう
 ことになるが、予が詫びていたと卿からよく伝えてくれ」
ミッターマイヤー「重ね重ねのご配慮、かたじけのうございます」
アレク「…で、他には誰を護衛に付けるというのだ?」

鉄の髭「私めにございます」

アレクからの問いかけに姿を現し馳せ参じたのは、
帝国直属の私掠船海賊・鉄の髭であった。

アレク「おお、鉄の髭か!」
鉄の髭「謹んでお供仕ります」
ミッターマイヤー「陛下には、旅の間は鉄の髭の海賊船パラベラム号に
 船員としてご乗船頂きます」
アレク「わかった。ただしその方たちに申して置く。
 旅の間は断じて俺は銀河帝国皇帝アレクサンデル・ジークフリード・
 フォン・ローエングラムにあらず! アレクという名の一介の
 宇宙の旅人だ。よいな?」
ミッターマイヤー「ハハッ」
鉄の髭「心得ました」

こうして、前代未聞の銀河帝国皇帝による
エンペリアス星までのお忍び道中が開始されることになったのである。


***ミッターマイヤー邸・玄関***

皇帝座乗艦である帝国軍旗艦ブリュンヒルトが出発する日を明日に控え、
皇帝の礼服を脱ぎ、一般の民間人の旅装に姿を変えたアレクは、
出発の前にミッターマイヤー邸へと挨拶に出向いた。

エヴァンゼリン「皇帝陛下!?」
アレク「フラウ・ミッターマイヤー、暫くの間フェリックスをお借りします。
 お寂しい思いをさせてしまいますが、どうかお許しください」
エヴァンゼリン「わざわざのお気遣い、かたじけなく存じます。
 ですが、実は息子も本心では陛下とご一緒に旅が出来る事を
 とても楽しみにしておりましたのよ」
フェリク「母さん!?…(///)」

母エヴァンゼリンの暴露に、側にいたフェリックスは思わず赤面する。

エヴァンゼリン「フェリク…私の可愛い息子。陛下の事をお願いね」
フェリク「うん、わかってる。行ってくるよ母さん」
ハインリッヒ「坊っちゃま、行ってらっしゃいませ!!(TmT)ウゥゥ・・・」
フェリク「泣くな! 今生の別れじゃあるまいに(汗」

139

***旗艦ブリュンヒルト・皇帝居室***

連坊「これはなかなか乙な味だのう。
 ビッテンフェルト提督、これは鴨か?」
ビッテンフェルト「皇帝陛下! 陛下はいちいち出される料理の吟味などは
 いたしません! "乙な味"とは何事にございますか!!」
連坊「そんなこと言ったって…」

皇帝としての旅の道中での食事の礼儀作法一切を
叩きこまれている最中の連坊小路である。

連坊「ビッテンフェルト提督、予は皇帝であるぞ。
 卿は予に逆らうのか?」
ビッテンフェルト「…ふん、こういう時だけ皇帝陛下らしくなりおって(呆」

何しろ本物の皇帝から「無理を言って影武者を引き受けてもらったのだから、
多少の融通は利かしてやれ」と言われているため、ビッテンフェルトは
必死に堪忍袋の緒を締めているのであった…ww。


***フェザーン宇宙港・港湾都市***

かつての宇宙貿易都市でもあった大帝都星フェザーンには、
今でも数え切れぬほどの船員と積み荷が常に活発に行き来し、
大小様々な圧倒的多数の宇宙船舶が停泊している。

その一つ、帝国帝室公認の宇宙海賊船パラベラム号へと
乗船したアレクとフェリックスは、鉄の髭から他の船員たちを紹介される。

アレク「鉄の髭…いや、これからは俺も卿の事をキャプテンと呼ぼう。
 キャプテン、明日フェザーンを出発してから今後はどこに向かうのだ?」
鉄の髭「ハッ、艦隊はフェザーン回廊と新領土(ノイエ・ラント)を経由して
 エンペリアス星に向かいますれば、我々もそれにつかず離れず並行して…」
アレク「鉄の髭、その言葉遣いどうにかならないのか?
 俺の事は一介の船員として見てもらわねば困ると言っただろう」

その会話を傍で聞いていたグラマラスな女性が、
アレクたちと鉄の髭の会話の間に入って来た。

梨理香「へぇ~いい度胸だ。それじゃあ早速新人の船員らしく
 コンテナの積み荷運びや掃除からやってもらおうか!」
アレク「了解だ♪」
梨理香「ここでは上官の船員に返事をする時は"アイアイサー"だよ!」
アレク「アイアイサー!!」
梨理香「アンタもなにボサーッとしてんだい。一緒にコイツの仕事を手伝いな」
フェリク「…え? あ、ああ…わかった」

梨理香の言いつけに対して、アレクは怒るどころか嬉々として
フェリックスと共に額に汗しながら見習い船員として
せっせと労働に従事している。

梨理香「すぐに音を上げると思ってたけど、なかなか根性あるじゃないか。見直したよ」
鉄の髭「だがほどほどにな…。何しろアレクは、皇太后ヒルダ様と
 ミッターマイヤー元帥からの大事な預かり人だ」
梨理香「わかってるよ」

加藤梨理香――かつて伝説的な女海賊と呼ばれた「ブラスター・リリカ」その人であり、
鉄の髭ことゴンザエモン加藤芳郎の妻である。

140

午前中の作業を一通り終えたアレクとフェリックスは、
許可をもらって港町へと繰り出した。
昼の腹ごしらえをすべく、とある一軒の船員食堂へと入る。

ウェイトレス「いらっしゃいませ! お客さん、何になさいます?」
アレク「そうだなあ……」

アレクはふと、隣の席に座る女エイリアンが食べている
見た目がネバネバとした糸を引いている定食料理に
興味深そうに視線を向ける。

アクアル「…? なぁに、私になんか用?」
アレク「それは何という食べ物だ?」
アクアル「なによ兄さん、納豆を知らないの?」
アレク「ナットウというのか。これと同じ物を頼む」
フェリク「アレク、たぶん納豆は口に合わないと思うぞ」
アレク「いいじゃないか、何事も経験だ」
ウェイトレス「畏まりました」

暫くして、アレクの席に納豆定食が運ばれて来た。
恐る恐る口にするアレクだが……。

アレク「うむ、美味だ。これがナットウというものか…」
アクアル「ちょいとお兄さん、もしかしてどこかの貴族様なの?」
アレク「あはは…なんにしても美味い」

続けてアレクはお椀のお茶を口にするが……。

アレク「あちっ!!」

お茶が熱かったためか、アレクは思わずお椀を手から落としてしまう。

アクアル「ハハハ…おまけに猫舌だ。面白い人もいたもんね。
 ウェイトレスさん、お勘定ここに置いとくわよ――アッ!!」

その女エイリアン=水将軍アクアルは、勘定を払おうとして
誤ってアレクのすぐ傍で転んでしまう――いや、それは見せかけで、
実は転んだフリをしてアレクの懐に右手を伸ばしていたのだ!
しかしその右手はすぐに異変に気付いたアレクに掴まれる。

アクアル「痛ッ!…なにすんのよ!?」
アレク「男の懐に手を入れるとは感心しないな」
アクアル「へ…変な事言わないでよ!!」

言い訳して逃げようとするアクアルを、
すかさずフェリックスが組み伏せて取り押さえた。

アクアル「くっ…!」
フェリク「アレクっ、この女は巾着切りだ!」
アレク「巾着切り?」

俗に言う"スリ"である。

アレク「そうか、金が狙いか…。欲しいだけ持ってけ」
フェリク「えっ!?」
アクアル「ハァ!?」

141

アレクはアクアルの目の前に、ずっしりと金貨が詰まった
自分の財布を差し出した。

フェリク「アレク!?」
アレク「構わん。きっと金が必要で困っていたんだろう。
 10万マルクでも20万マルクでも好きなだけ持って行くがよい」
アクアル「………」

しかしこのアレクのよかれと思って発せられた言葉に
一番反感を剥き出しにして食って掛かったのは、
当のスリの張本人のアクアルだった。

アクアル「バカにするんじゃないわよ! アンタ何様のつもり!?」
アレク「どうしたんだ…?」
アクアル「黙って聞いてりゃあ、いけしゃあしゃあと!
 私はねえ、金が欲しくてスリをやってるんじゃないんだよ。
 一旗挙げようと帝都までやって来た仲間のために、
 必要な軍資金を稼ごうと思って………まあ、こんなこと
 アンタに話しても仕方ないか。でもねえ、人様の懐を狙う以上は、
 私にだって覚悟があるのよ! 刑務所にぶちこまれようが
 銃殺刑にされようが悔いはないんだ! それをなによ!
 "金が欲しかったら持ってけ"? 冗談じゃないわ!!
 アタシはね、物乞いじゃないんだよ!!」
アレク「……??」
アクアル「いいわね! 次に会った時は今度こそ
 その財布をスリ取ってやるからね! 覚えときなさい!!」

周囲の客や店員が皆呆気にとられる中、アクアルは大声で「釣りはいらない」と叫び、
勘定をテーブルに置いて堂々と威張って出て行った。

アレク「何を怒っているんだ、あの女は?」
フェリク「スリにも誇りというものがあるのさ」
アレク「そうか、俺はあの女の心を傷つけてしまったのか。
 それは悪い事をしたな……」

正直に本心から済まなそうな顔をするアレクを見て、
フェリックスは思う。

フェリク「……(前途多難だなこりゃ)」


***???***

出発を目前に控える旗艦ブリュンヒルトと随行の艦隊を
軍港の遥か遠くから眺める謎の一団…。

???「アレクサンデル、お前が無事にエンペリアスまで辿り着く事はない」
???「今ならまだブリュンヒルトの警備も手薄のはず…」
???「善は急げというからな」

銀河帝国皇帝アレクサンデル・ジークフリード・フォン・ローエングラムに対する
暗殺計画の魔手は、密かに、そして静かに着実に忍び寄っていた。

142

○アレクサンデル・ジークフリード・フォンローエングラム→身分を隠して一介の見習い船員としてパラベラム号に乗船。
○フェリックス・ミッターマイヤー →アレクと共に一介の見習い船員としてパラベラム号に乗船。
○ウォルフガング・ミッターマイヤー →連坊小路に皇帝の影武者を命じる。
○フリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルト→連坊小路を皇帝の影武者として指導する。
○エヴァンゼリン・ミッターマイヤー →旅立つアレクとフェリックスを見送る。
○ハインリッヒ・ランベルツ→旅立つアレクとフェリックスを見送る。
○流木野サキ→連坊小路が皇帝の影武者となる事に同意。
○連坊小路アキラ→連坊小路が皇帝の影武者となる事に同意。
○連坊小路→皇帝アレクサンデルの道中での影武者となる。
○鉄の髭→パラベラム号にアレクとフェリックスを預かる。
○加藤梨理香→アレクとフェリックスを見習い船員として厳しく指導する。
○水将軍アクアル→港町で偶然出会ったアレクの懐を狙うが失敗。

【今回の新規登場】
○連坊小路アキラ(革命機ヴァルヴレイヴ)
 中立国ジオールにある咲森学園の女子生徒。学年は2年。SNS「WIRED」の創始者。
 HNはRAINBOW。生徒会長の連坊小路サトミの妹だが、重度の対人恐怖症であり、
 普段は学園内の立ち入り禁止区域に建てたダンボールハウスに引きこもっており、
 授業には出ていなかった。ハッカーとしての腕前も高く、ARUS軍の暗号通信を傍受・解読し、
 監視カメラの映像をハッキングする事も出来る。ヴァルヴレイヴVI「火遊」へと乗り込み、
 マギウスとなる。約200年後の第三銀河帝国においては、「教母」という重要な立ち場に就いている。

○加藤梨理香(モーレツ宇宙海賊)
 加藤茉莉香の母親。男っぽい言葉遣いをする。職業は海明星にある新奥浜空港の管制官だったが、
 後に宇宙海賊船「パラベラム号」の乗員となった。かつては伝説的な女海賊「ブラスター・リリカ」
 と呼ばれたが、現在も宇宙海賊船「弁天丸」のクルーとは関係が続いている。
 娘の茉莉香は「お母さん」ではなく「梨理香さん」と呼ぶことが多い。

○水将軍アクアル(超星艦隊セイザーX)
 宇宙海賊デスカル3将軍の紅一点。水の属性を持つ、冷静沈着な策士。
 ちょっとせっかちで、盛り上がる2人に手厳しいツッコミを入れ話を中断することが度々ある。
 頼りない他の2人を馬鹿にしているが、2人のことを心配する面も持つ。煽てに弱い。
 使用する武器は先端に月のようなオブジェの付いた杖「ラグバッシュ」。
 実はシャーク隊長がこのアクアルの血筋を引いている事が後に判明する。


『二人皇帝、エンペリアスを目指す』-6

作者・ティアラロイド

143

***フェザーン市・宿場街***

ここは、ブレアードたち元デスカル三将軍が
銀河帝国帝都で当面の寝座にしている宿屋である。

先程、アレクから財布をすり取ることに失敗した
アクアルが帰って来た。

アクアル「ただいま…」
ブレアード「おーっ! おかえりッ!
 …どうしたその暗い顔は? ハハァ~ン、さては
 またスリに手を出してしくじったな。やめとけやめとけ!
 いい加減にそんな小物くさい真似は!」
アクアル「うっさいわね! だいたい誰のために
 スリなんて真似やってると思ってるのよ!
 ここの溜まった宿代だってどうやって払うつもり!?」
ブレアード「そのうちなんとかなるだろ!」
アクアル「あんたね~ッ!!」
サイクリード「二人とも、喧嘩はよそうよ…!」

そんなこんなで、いよいよ帝国艦隊の出発も明日に控えた夜の事…。


***旗艦ブリュンヒルト・皇帝寝室***

連坊「………」

連坊小路はとても退屈かつ羨ましそうに窓から夜景を眺めている。
その視線の先には、帝都城下の歓楽街の明かりが輝いていた。

連坊「今頃アレク陛下たちは、あそこで楽しくやってるんだろうなあ…。
 いいなあ、羨ましいなあ…。――よしっ、バレて元々だ!」

連坊小路の頭に、ふとよからぬ考えが…。


***宇宙海賊船パラベラム号***

明日の出発に備えて旗艦ブリュンヒルトに詰めていた
ビッテンフェルトが血相を変えてパラベラム号のアレクたちの元に
飛び込んで来たのは、その同日夜の事だった。

ビッテンフェルト「アレク殿、一大事だ! "皇帝陛下"が消えました!」
アレク「なんだって!?」

驚いてベットから飛び起きるアレク。
ビッテンフェルトの話では、どうやら連坊小路は影武者の窮屈な日々に耐えかねて、
こっそりとブリュンヒルトの中から抜け出したらしい。

ビッテンフェルト「手分けして探しておりまするが、未だどこにも!」
鉄の髭「まさか影武者の任から逃げ出したのではありますまいな!」
アレク「連坊はそんな奴じゃない。おそらく息抜きに街に出たのであろう。
 ともかく俺たちも捜索を手伝おう!」
鉄の髭「シェイン、留守は任せたぞ」
シェイン「了解です、キャプテン」

145

***フェザーン市・歓楽街***

アクアル「フフフッ…カモみぃ~けッ!」

ブレアードと口喧嘩して再び街へとぶらついていたアクアルは、
目の前をうろうろしている身なりのいい青年に目をつけた。

アクアル「ちょいとお兄さん!」
連坊「…えっ、僕の事ですか?」
アクアル「随分と立派な服を着てるみたいだけど、
 もしかしてどこかのお貴族様?」
連坊「ま、まあ…そんなようなもんです」

アクアルは色仕掛けで連坊に迫る。

アクアル「ねえお兄さん、どこかで食事でも
 おごってくれな~い?」

そのままアクアルと連坊小路は二人で近くの高級レストランへ。

連坊「どうでもいいですけど、貴女よく食べますねえ…」
アクアル「だってこんなに値の張る料理を食べられるのは
 久しぶりだもの~! …で、アンタ本当はどこの伯爵さまか
 公爵さまなの?」
連坊「そ、そんなんじゃありませんよ!!
 マスター! 勘定はここに置いておきま~す!!」
アクアル「あ、待て! 逃げるな~ぁ!!」

アクアルの色仕掛けにまだ免疫がなかった連坊小路は、
堪らずさっさと支払いを済ませて退散しようとする。
せっかく見つけたカモをそう簡単に逃してなるものかと
必死に追いかけるアクアル。

だが、突然数人の黒ずくめの男たちが、
逃げる連坊小路を取り囲んだ。

連坊小路「な、何なんですかアナタたちは!?
 ――うっ!!」

連坊小路は黒ずくめに当て身を浴びせられ、
気絶したまま担がれて連れ去られてしまった。
その様子の一部始終を呆気にとられながら見ていたアクアル。

アクアル「な、何なの今のは!?
 …もしかして、本当にアイツどこかの貴族様…??」

146

***郊外の廃寺院***

ここは今はもう使われていない、無人の廃寺である。
気がつくと連坊小路は縄で縛られて、床に転がされていた。

黒ずくめ「皇帝陛下、お目覚めになられましたか?」
連坊「だ、誰だお前ら!――じゃなくて、
 そちらは何者じゃ?」

連坊小路を数人の物騒な黒ずくめの男たちが
取り囲んでいる。

黒ずくめA「我らは地球教徒にございます」
連坊「地球教徒…??」
黒ずくめA「貴方様の御父上、獅子帝ラインハルト陛下に
 滅ぼされた地球教の残党にございますよ。もっとも、
 真の神に仕える者はたとえ殺されても死なぬものでしてな…」
連坊「そ、それではその方ら、予を殺すつもりか!?
 …(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル」
黒ずくめA「御意の通りにございます」
連坊「ま、待て! 早まるな! お前たちは間違っている! 実は僕は――」
黒ずくめA「すぐには殺しません。実は私共の上には、やはり貴方様に恨みを抱き、
 消えてもらいたがっている御仁がおられましてな…」
連坊「じょ、冗談じゃない!!」
黒ずくめB「うるさい! 静かにしていろ!!」


***フェザーン市・歓楽街***

夜の街に出て聞き込みをして回るアレクたち。
ある高級レストランの支配人から重要な情報を聞き出した。

支配人「身なりのいい若い男性の方でしたら、
 はい、確かに一時間くらい前に当店にお見えになりました」
フェリク「で、その後どこへ?」
支配人「アクアルと一緒に飲んでましたから、
 アクアルでしたら知っているかもしれません」
フェリク「アクアル?」
支配人「港町外れの宿屋を寝座にしている
 エイリアン三人組の一人でしてね。
 なんでも巾着切りをしているという噂ですがね」
フェリク「巾着切り? もしかしてあの時の女エイリアンか…」

147

***同市・宿場街***

フェリク「アレク、あとは俺たちが引き受ける。
 お前はパラベラム号に戻っていてくれ」
アレク「どうして俺だけさっさと帰そうとするんだ?」
フェリク「それは…」
アレク「俺の暗殺計画が進行中で、

 俺の身に密かに危険が迫っているからか?」
フェリク「――!!」

アレクの言葉に、その場にいたフェリックス、梨理香、鉄の髭は絶句する。
暗殺計画の件は、まだアレク皇帝本人には伏せられていた筈なのだった。

鉄の髭「知っていたのか…」
アレク「もし連坊の身に何かあれば、それは影武者を任せた俺の責任だ。
 ここで退く訳にはいかない! ここは俺が引き受ける」

アレクはアクアルたちの泊まる部屋を訪ねる。

アレク「御免! 夜分に申し訳ない」
ブレアード「誰だお前は?」

応対に出て来たのは、燃え上がる炎のような出で立ちの
男のエイリアンだった。

アレク「恐れ入ります。アクアルさんはこちらにいらっしゃいますか?」
ブレアード「なんだ、アクアルの知り合いか。お~いアクアル、お客さんだぞ!」
アクアル「―アッ! アンタは!?」
アレク「あの時のスリ!?」

顔を合わせたアレクとアクアルは目を丸くする。

アクアル「何しに来たのよ! またアタシをからかいに来たわけ!」
アレク「そんなんじゃない。

 貴女と料理店で会っていた男の行き先を教えてくれないか?」
アクアル「料理店で会っていた男?」
アレク「これは申し遅れた。俺の名はアレク。あの男は連坊と言って俺の友人なんだ。
 料理店の支配人が、貴女と連坊が一緒にいるところを見たと言うんだ」
アクアル「知らないわね、そんな人。大方その支配人は夢でも見てたんじゃないの?」
アレク「アクアルさん、手掛かりだけでもいい。頼むっ…!」
アクアル「しつこいわね! アタシには関係ない事よ!
 とっとと帰ってちょーだい!!」

アレクは強引に宿の外へと締め出されてしまった。

アレク「アクアルさん、話してくれるまで、俺はここを動かない!!」

アレクは扉の前に正座して長期戦の構えを見せる。
やがて天候が雨模様となり、激しい雨がアレクの身体を打ち付ける。
それでもアレクは微動だにしない。
見かねたフェリックスが側に駆け寄ろうとするが、
それを梨理香が引き留めた。

梨理香「待ちな」
フェリク「なんで…!」
鉄の髭「あれでよいのだ。アレク陛下の御為にもな。一介の旅人でありたいと言うお言葉が、
 ただのお戯れに終わるかどうかは、あの女エイリアンに陛下のお気持ちが伝わるか
 どうかにかかっている」

148

やがて日が昇り始めた…。

サイクリード「ねえ、中に入れてあげようよ。
 あの人、風邪ひいちゃうよ」
アクアル「………」

ついにアレクの誠意が通じたのか、
根負けしたアクアルは傘をさしてアレクの側にそっと寄り添った。

アクアル「アレクって言ったわね。アタシの負けよ…」
アレク「アクアルさん…」
アクアル「ごめんなさい。実はアタシ、その人が連れ去られるところを見たわ」
アレク「連れ去られた!?」
アクアル「実は気になってその人が連れて行かれた場所まで尾行したのよ。
 その連坊って人が捕まっている場所は郊外の廃寺院よ」
アレク「郊外の廃寺院だな!? アクアルさん、ありがとう!!」

アレクたちは直ちに、アクアルから教えられた郊外の廃寺院に向けて走り出す。

鉄の髭「梨理香、お前はパラベラム号に戻って
 ブリュンヒルトと連絡を取れ!」
梨理香「了解だよ!」
アレク「…死ぬなよ! 絶対死ぬんじゃないぞ連坊!!」

それを見送るブレアードたちデスカル三将軍。

ブレアード「今時珍しい根性のある若造じゃねえか。
 なんだか拓人の奴を思い出すぜ!」
アクアル「アレクか…。ふふっ、いい男ね♪」

149

○アレクサンデル・ジークフリード・フォン・ローエングラム→アクアルから連坊小路が連れ去られた先を聞き出す。
○フェリックス・ミッターマイヤー →ブリュンヒルトから抜け出した連坊小路を捜索する。
○フリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルト→ブリュンヒルトから連坊小路が抜け出したとアレクに報告する。
○鉄の髭→ブリュンヒルトから抜け出した連坊小路を捜索する。
○加藤梨理香→ブリュンヒルトから抜け出した連坊小路を捜索する。
○シェイン・マクドゥガル→連坊小路の捜索に鉄の髭たちが出かけたパラベラム号の留守を守る。
○連坊小路→ブリュンヒルトからこっそり抜け出すが、本物の皇帝と間違えられ地球教に誘拐される。
○火将軍ブレアード→連坊小路の行方を尋ねに来たアレクたちと出会う。
○風将軍サイクリード→連坊小路の行方を尋ねに来たアレクたちと出会う。
○水将軍アクアル→アレクの誠意が通じ、連坊小路の行方を教える。


『二人皇帝、エンペリアスを目指す』-7

作者・ティアラロイド

150

***帝都星フェザーン・郊外の廃寺院***

首領の男「ふふふ…案ずるより産むが易しとはこの事よ」
黒ずくめA「お待ちしておりました」

銀河帝国皇帝アレクサンデル・ジークフリードと間違われて
誘拐された連坊小路が監禁されている廃寺院に現れた、
一味の首魁と思しき男。頭巾をかぶっており顔は見えないが、
その声色から歳は20代前後ではと推測される…。

黒ずくめA「皇帝陛下、これまでにございます」
連坊「そ、その方ら…あくまで予を殺そうと言うのか!?」

首領の男「――!!」

囚われている連坊小路の顔を見た途端、
一味の首領は目を丸くして驚愕した。

首領の男「…違う! こやつはアレクサンデルではない!」
黒ずくめA「ええっ!?」
黒ずくめB「な、なんと!?」
連坊「……(マズい、バレた!)」

周囲がざわめく。

首領の男「たわけ! おそらくこやつは影武者だ!
 アレクサンデルがこのような手に出る事は
 計算のうちに入れておくべきであった…」
黒ずくめA「この男はどうします?」
首領の男「殺せ」

首領の命令で、黒ずくめの一人が鋭利な短剣を抜いて、
抵抗できない連坊小路に向ける。
もはやこれまでか…と連坊小路が諦めかけたその時!?

黒ずくめC「ぐわああッッ!!!!」

黒ずくめの一人が悲鳴と共にぐったりと倒れた。
その場にいた全員が異変に反応して視線を向けると、
そこに立っていたのは、サイ・ブレードを手に構えた
黄金色の髪と青石色の瞳をもつ青年であった。

連坊「ア、アレク陛下ぁ~!!(涙」
首領の男「アレクサンデル!?」

アレク「………」

151

連坊「どうしてアレク陛下がここに?」
アレク「俺の大事な分身の、お前を死なせるわけにはいかぬ!」

人を安心させるように優しく微笑みながら
力強く答えるアレクの言葉に、連坊小路を感涙する。

首領の男「ふはははは!!! わざわざ死にに来てくれるとは御苦労!
 アレクサンデルを討ち取るのだ。殺せ…二人とも殺せ!!」

首領の号令で、一斉に暗殺用の短剣を抜いた黒ずくめたちが
アレクに向かって飛びかかる。それに対してアレクは退かずに
サイ・ブレードを突き出した。その光の刃は先頭の黒ずくめの胸を貫き、
さらにアレクは襲い来る敵を切り捨てながら前進を続ける。

一方のフェリックスは応援に駆け付けたパラベラム号の船員たちと共に、
ブラスターによる敵との銃撃戦を繰り広げていた。
ブラスターの閃光は、黒ずくめの一味を次々とハリネズミと化していく。

フェリク「大丈夫か連坊!?」
連坊「ミッターマイヤー中尉~!!(涙」

フェリックスは連坊小路の縄を解いてやり、
まずはその身柄の安全を確保した。
だがそれで安堵する暇などはなかった。
突然その場から轟音が鳴り響き、
全高が18m前後と思われる人型機動兵器が数機ほど姿を現し、
こちらに向けて攻撃する姿勢を見せたからだ。

フェリク「あれは…!」
アレク「マズい、逃げろ!!」

瞬時に状況を冷静に判断したアレクが叫ぶ。

GAT-04ウィンダム――地球連邦軍、特に地球至上主義者である
ロゴス派の部隊が好んで使用するするモビルスーツである。
まだ銀河帝国軍には、この手の2足歩行型の機動兵器はほとんど導入されていない。
おそらくこのような場合に備えて暗殺団が事前に用意していたのだろう。

追い詰められるアレクたち。
しかし危うしという時に、黒と赤のカラーリングをした人型機動兵器――
――正確には霊長兵器・ヴァルヴレイヴⅠ「火人」のハンドガンから撃ち出された
硬質残光が瞬く間に2機のウィンダムを撃ち落とした。
さらにもう2体の霊長兵器、ヴァルヴレイヴⅣ「火ノ輪」と
ヴァルヴレイヴⅥ「火遊」が、それぞれ遠隔操作兵器「スピンドル・ナックル」と
鳥の翼のようなピッケル型の杖状の装備「ハミング・バード」を駆使して
残ったウィンダムを全て殲滅した。

フェリク「あれは…!」
アレク「ああ、きっとサキ先生に教母様たちだ」

サキ@通信「アレク陛下、ご無事ですか!?」

連坊「サキさま! アキラさま! ショーコさま~!。゜゜(´□`。)°゜。ワーン!!」

152

アキラ「連坊ッ!!」
連坊「ううっ…」

連坊小路アキラは、影武者の任から逃げ出した連坊小路を怒鳴りつけた。
しかしアレクは連坊小路を庇った。

アレク「教母様、そんなに連坊を責めないでやってください」
アキラ「陛下は連坊に甘すぎます」
ショーコ「いいんじゃないかな。

 当のアレク陛下がそんなに怒ってないんだし」
アキラ「ショーコちゃんまで…」
サキ「ふふっ…」

連坊小路はアレクの側に飛びついて跪く。

連坊「アレク陛下!」
アレク「連坊、怪我はないな?」
連坊「はい。陛下、私はついさっきまで影武者の任務に嫌気がさしておりました。
 折を見て逃げ出してやろうかと本気で考えておりました。でも今は違います。
 こんな僕のために、陛下は命をかけて助けに来てくださいました…。
 僕は…陛下のために、死んでも影武者の任をやり遂げます! きっと!」
アレク「連坊…」

その後、ケスラー総監率いる憲兵隊が到着し、
一味のいなくなったアジトの現場検証が始まった。

ケスラー「現場に残った死体や逮捕者の中に、
 一味の首領と思しき人物はおりませんでした」
ビッテンフェルト「ケスラーの敷いた緊急配備を潜り抜けるとは、
 これは只者ではありませんな」
フェリク「いったい何者だろう…」
アレク「頭巾で顔は解らなかったが、
 俺の顔を知っている人間である事は確かだ」

153

宇宙港で多くの臣民が歓声と共に見送る中、
銀河帝国皇帝アレクサンデル・ジークフリード一世を乗せた
旗艦ブリュンヒルト率いる宇宙艦隊は、ついに帝都星フェザーンを出発した。
フリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルト元帥の乗艦「王虎(ケーニヒス・ティーゲル)」と、
ナイトハルト・ミュラー元帥の乗艦「パーツィバル」が両脇を固めている。

アレク「さて、そろそろ俺たちも出発するか」
フェリク「いよいよフェザーン回廊だな」
アレク「鬼が出るか蛇が出るか、とにかく長い旅になりそうだ」

こうしてパラベラム号に乗り込もうとしたアレクたちの目の前に、
いきなりひょっこりと現れたのは、あのデスカル三将軍たちだった。

アレク「アクアルさん!?」
ブレアード「よっ!」
アクアル「お願いっ。アタシたちも一緒に旅に同行させてよ♪」
アレク「エ━━ΣΣ(゚Д゚;)━━ッ!!」
フェリク「エ━━ΣΣ(゚Д゚;)━━ッ!!」

アクアルたちからのいきなりの申し出に困惑するアレクたち。

ブレアード「確かアレクって言ったよな。お前の事は気に行ったぜ♪
 俺はブレアードだ。ヨロシクなっ!!」
サイクリード「サ、サイクリードと申します。よろしくお願いします…」

勝手に自己紹介を始めて話を進めようとするブレアードたちに、
鉄の髭が待ったをかける。

鉄の髭「そのような事を認める訳にはいかん!」
ブレアード「そんなケチくさいこと言うなよ、オッサン!」
シェイン「いきなりそんなこと言われても、
 うちの船はもう定員オーバーだ。あんたたち
 自分の船は持ってるのか?」
ブレアード「へっへっへ…それなら心配はいらねーよ。
 ――ドリルアングラーァッ!!!」

ブレアードが一声叫ぶと、なんと地中から
先端にドリルのような装備がついたモグラのようにも見える中型の宇宙戦艦が
地割れと共に姿を現した。それを見ていて呆気にとられる一同。

ブレアード「これが俺たちの船だ」
アクアル「これなら文句ないでしょ」
アレク「いいじゃないかキャプテン。
 旅は道連れ。賑やかな方がいい」
鉄の髭「う~む…」
アクアル「うふふ、ありがとっ!」

アクアルはそっとアレクの頬にキスをする。

アレク「――!?(///)」
フェリク「…なっ!!」

かくて前代未聞空前絶後の
銀河帝国皇帝による隠密道中が開始された。
夢を追う青年アレクの行く手に待ち受けるものは何か…。
目指す星間評議会の首府・惑星エンペリアスは、
4万8千光年の彼方にある。

       ◆

       ◆

       ◆

首領の男「…アレクサンデル、待っていろよ。
 自由を求めたお前の行いが、いずれ貴様の命取りとなるのだ。
 不慮の死を遂げたアレクサンデルに代わり皇帝となるのはこの私だ!
 エルウィン・ヨーゼフ・フォン・ゴールデンバウムだ!!」

154

***地球・ヒマラヤの地球教本部***

部下の主教から報告を受ける、
地球教団の総書記代理たる大主教ド・ヴィリエ。

獅子帝ラインハルトの勅命を受けたワーレン提督率いる銀河帝国軍によって、
地球教の総本山は一度壊滅させられたはずであった。
しかし「黄泉がえり」という名の超自然現象によって、
歴史の闇の彼方に葬り去られたはずの狂信者たちは再び現世へと舞い戻り、
敵対者に対する憎悪を燃やし続けていたのである。

ド・ヴィリエ「では皇帝アレクサンデルが忍び旅に出たというのは事実であったか」
主教「これこそ神の与え賜もうた恩寵。この機を逃してはなりませぬ」
ド・ヴィリエ「無論の事よ。フフフ…それにしても皇帝アレクサンデル、
 名君・英雄と謳われた父親とは比べ物にならぬ愚帝の器と見えるな」
主教「しかしエルウィン・ヨーゼフ2世…あの男、果たして役にたちましょうや…」
ド・ヴィリエ「過去の亡霊という奴は煽てれば扱いやすい。
 いずれこの日が来ることを予期して、一緒に逃げていたランズベルク伯の手元から
 赤子をすり替え今日までお育てしていたのよ。日々人助けはしておくものよな」
主教「まさに功徳にございまするな…」

ド・ヴィリエは片手を宙にかざし、血気にはやる部下たちを制した。
三次元銀河宇宙の安定に寄与する大国・銀河帝国の皇帝に不測の事態が起きれば、
一気に情勢は流動化し、乱世と各勢力による潰し合いが開始されるであろう。
それこそまさに地球教の望むところであった。
そのためには、旧ゴールデンバウム王朝という過去の亡霊でさえも
地中から穿り返して利用するだけ利用する。
そして用が済めば、まだコントロールの効く内に使い捨てればいいのだ…。

ド・ヴィリエ「フフフ…フハハハハッ!!!!!!」


***バード星・銀河連邦警察本部***

仮面の女「………」

ジュリアス・カミュエル卿の使いとして
バード星の銀河連邦警察本庁を訪れた仮面の女は、
ロビーで待ち合わせていた人物が来るのを待っていた。

撃「銀河連邦警察・特務担当宇宙刑事、十文字撃。
 コードネーム・ギャバン! 召請により只今参りました!」
シェリー「同じく、ギャバンのパートナーのシェリーです」

二人は仮面の女の前で並んで敬礼する。

仮面の女「お待ちしていました。おかけください」

席に座った撃とシェリーの二人に、
テーブルを挟み対面する形で座った仮面の女は用件を話し始める。

仮面の女「ギャバン、貴方の事は一条寺烈隊長より伺っております。
 何度も命令違反を繰り返しては一直線に突っ走り、
 手を持て余している非常に扱いが厄介な部下だと…」
撃「いやあ…お恥ずかしい限りです」

隣に座るシェリーもクスクスッと笑っている。
しかしその撃の一途なまでの熱血なところが、
これまでマクー再興の野望やスペースショッカーの陰謀、
そしてゴードン長官父娘のスキャンダルなど
数々の難事件を解決へと導いてきたのだ。

仮面の女「そんな貴方の腕と実績を見込んで
 極秘任務をお願いしたいのです。これからする話は
 くれぐれも他言無用です」
撃「はい」

仮面の女は撃とシェリーの二人に、銀河帝国皇帝
アレクサンデル・ジークフリード・フォン・ローエングラムが
艦隊を率いてエンペリアス星に向けて出発した件を話しだした。

撃「銀河帝国の皇帝陛下が身分を隠してお忍びの旅をねえ…」

なんか水戸黄門みたいな話だなと撃は内心思った。
そういう事が今の世の中、しかも地球から遠く離れた宇宙の星で
実際にあるとは…。まったく偉い人の考える事はわからない。

仮面の女「そこで貴方がたお二人には、陰ながらアレク陛下の
 警護をお願いしたいのです」
撃「わかりました。お引き受けしましょう」
仮面の女「もし旅の途中でアレク陛下の御身にもしもの事があれば、
 その混乱の影響は測り知れません。そのような事態は絶対に
 避けなければなりません。何卒よろしくお願いいたします」

155

○アレクサンデル・ジークフリード・フォン・ローエングラム→連坊小路の危機を救い、いよいよ帝都星フェザーンから旅立つ。
○フェリックス・ミッターマイヤー →連坊小路の危機を救い、いよいよ帝都星フェザーンから旅立つ。
○ウルリッヒ・ケスラー →緊急配備を敷くが、暗殺団の首領には逃げられる。
○フリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルト→皇帝(影武者)のお供をして、いよいよ帝都星フェザーンから旅立つ。
○鉄の髭→デスカル3将軍が旅に同行する事に難色を示す。
○シェイン・マクドゥガル→デスカル3将軍が旅に同行する事に難色を示す。
○指南ショーコ→時縞ハルトから引き継いだヴァルヴレイヴⅠ「火人」を駆って、アレクたちの危機に駆けつける。
○流木野サキ→ヴァルヴレイヴⅣ「火ノ輪」を駆って、アレクたちの危機に駆けつける。
○連坊小路アキラ→ヴァルヴレイヴⅥ「火遊」を駆って、アレクたちの危機に駆けつける。
○連坊小路→アレクたちに危機を救われ、影武者の任をやり遂げる覚悟を固める。
○火将軍ブレアード→アレクたちの旅に無理やり同行する事に。
○風将軍サイクリード→アレクたちの旅に無理やり同行する事に。
○水将軍アクアル→アレクたちの旅に無理やり同行する事に。
○十文字撃→仮面の女から、銀河帝国皇帝アレクサンデル警護の任を任される。
○シェリー →仮面の女から、銀河帝国皇帝アレクサンデル警護の任を任される。

●エルウィン・ヨーゼフ2世→皇帝アレクサンデルの命を狙う。
●ド・ヴィリエ→皇帝アレクサンデル暗殺計画の影で糸を引く。

△仮面の女(ユーフェミア・リ・ブリタニア)→十文字撃とシェリーに、銀河帝国皇帝アレクサンデルの警護を要請。

【今回の新規登場】
●エルウィン・ヨーゼフ2世(銀河英雄伝説)
 旧ゴールデンバウム王朝銀河帝国第37代皇帝。
 祖父である先帝フリードリヒ4世の急逝に伴い擁立された幼君で、
 常に傀儡として他人に利用され続け、まともな躾もされなかったためか、
 自我が抑制された時、過剰な暴力によってしか抵抗の意思を示す事が
 できなかった。銀河帝国正統政府の崩壊後、行方不明となる。
 その後発狂したランズベルク伯アルフレットの抱いた赤子の死体が
 発見されるが、後にそれは関係者の証言で別人と判明した。

○十文字撃=宇宙刑事ギャバンtypeG(宇宙刑事ギャバンTHE MOVIE/宇宙刑事NEXT GENERATIONシリーズ)
 地球人であり、元サイドカーレーサーで宇宙飛行士。
 スペースシャトル『かなた』の事故で宇宙空間を漂っていた所を
 地球でのアシュラーダの野望を食い止め帰還していた一条寺烈に助けられ、
 その後、銀河連邦警察で一年に及ぶ訓練を受け、宇宙刑事となり
 伝説のコードネーム『ギャバン』の名を継いだ。
 幼少期から『光を超えるぜ』が口癖。

○シェリー(宇宙刑事ギャバンTHE MOVIE)
 コム前長官の姪で、十文字撃のパートナー。
 非常に明るい性格のムードメーカーだが、たまに空気の読めない発言をする事も……。
 撃に対しては淡い恋心を抱いている様子。
 従姉妹のミミー同様、レーザービジョンでインコの姿に変身が可能。