『蘇る隠忍伝説』

作者・シャドームーン

1

迫り来るGショッカーの脅威と、それに対抗する幾多の勢力に渦巻く思惑…
地球圏は未曾有の騒乱に包まれていた。その戦火が遥かな時を隔てた
異世界にまで及んでいることに、まだ誰も気づいてはいない。

◇ ◇ ◇

その者、人に非ず。まして妖魔にも非ず。
その姿、日光の下にあれば影に潜み、月光の下にあれば暗闇に潜む。
伝説はこの者を「隠れ忍ぶ者~隠忍(おに)~」と呼ぶものなり。

天空より魔が降り立ち、それらの中にはこの世を滅ぼさんとする者がいた…
魔性の者共の企みを知り、勇敢に立ち向かった者たちもいた。
誰も知らぬ戦いが終わり、平和が訪れた。
誰も知らぬ男たちが守り、手に入れた平和の日々。しかし――…

***四国・地張の里***


天地丸「今だ、まとめて引導を渡してやれ!」
地張衆「ハッ! 忍法〝不知火〟」

四国の山中に響く、刀や手裏剣の金属音――――
濃紺の忍装束に身を包む男の号令と共に、配下と思しき黒装束の忍達が
一斉に印を結ぶ。巨大な炎が渦状に巻き起こり、襲い来る魔性の一族、
「妖魔」と呼ばれる魔物たちを飲み込み、焼き尽くした。

地張衆「あらかた片付きましたな、天地丸殿」
天地丸「ああ…奴らを除けばな」

黒装束の忍たちから「天地丸」と呼ばれた男は、眼下に転がる悪鬼共を見つめた。
紺の忍装束を纏い、短髪に赤い鉢巻きをしている。高度な忍術を体得した地張衆の
中にあって、落ち着き払った佇まいと貫禄を漂わせているが、その凛とした顔立ちはまだ
歳若い青年と呼べる風貌である。

大蜘蛛、鬼熊、一本だたら…市井の人々にも伝承として伝わる妖魔たち。
天地丸が幾度も戦い、勝利して来た相手である。しかし近頃、見たことのない
魔物が連中に混じって現れるという報告が後を絶たなかった。しかもそいつらは、
音もなく宙に漂う〝穴〟から這い出てくるという…
誰もが俄かには信じられない報告だったが、その不可思議な現象が現実となって
彼等の前に現れる。空間の歪みにできた穴から、未知なる魔物が出現した。

キマイラ「ブフオオオーッ!」
アーリマン「キキキキキキ」
ボム「・・・・・・」

牛、獅子、鷲のような三つの頭と蛇の尾を持つキマイラ。
巨大な一ツ目に蝙蝠のような翼を持つアーリマン。
炎に意思が宿ったかのような浮遊する火球ボム。
伝承にある妖魔たちと似た姿を持ちながら、妖魔が放つ「妖気」とは異質なものを
感じさせる不気味な魔物たちである。

2

地張衆「おのれっ!」
黒装束の忍たちが刀を構えるが、天地丸がそれを制した。

天地丸「まず敵の力を量る必要がある…俺が相手をしよう。皆は下がっていてくれ」
地張衆「〝最強の男〟天地丸殿がそう申されるならば」

忍たちは天地丸にかなりの信頼をおいているらしく、やや散開して様子を伺う。
数秒ほどの静寂を破り、キマイラが牛状の頭を突き出し〝突進〟して来た。

キマイラ「ブフォォォ!!」

次の瞬間、天地丸の姿はすでにそこにはなかった。超人的な身のこなしで跳躍し、
空中に浮かぶアーリマンとボムを視界に捉えると両手で印を結ぶ。

天地丸「忍法〝星嵐〟!」

無数に飛び交う手裏剣が意思を宿したかの如く魔物を襲い、次々と体や両目に突き刺さる。
天地丸は怯んだ魔物に高速で敵全体を切り裂く、剣術〝真空斬り〟を繰り出していた。
日輪の輝きを放つその剣は「日光剣」と呼ばれる伝説の刀剣。
妖魔に対して絶大な殺傷力を誇る刃が、未知なる魔物の一団をも一刀のもとに切り裂く。
アーリマンは真っ二つとなり崩れ落ち、ボムはその場で爆発して果てた。

キマイラ「ブフォ…ッ……サンダラ……」

半身を切り裂かれたキマイラが、後ろへ倒れながらも踏みとどまり、何やら呪文を唱える。
すると尾となっている蛇の目が光り、天から強烈な雷光が天地丸に炸裂した。

地張衆「天地丸殿ォー!! おのれ、あの魔物は雷を操るか!?」
 「あわてるな。天地丸殿があれしきで斃れるはずがあるまい」
 「フ、そうであったな。あの方こそは伝説の…」

忍たちの言葉を裏付けるように、サンダラを浴びた天地丸は苦しんでいる様子は微塵も無い。
すでに懐から放たれたクナイは蛇の顔面を貫き、今度こそキマイラは地面に斃れ伏した。

天地丸「ふぅ……」
地張衆「さすがは天地丸殿、鮮やかなお手並み」
天地丸「…待て!!」

散開していた地張衆が天地丸の下に駆け寄ろうとしたその時。絶命したかに思われた
キマイラが突如起き上がり、獅子状の頭から断末魔の〝メギドフレイム〟を放とうとする。

「地張忍法〝風神〟!」
どこからともなく一陣の風が吹き荒れ、竜巻となってキマイラを舞い上げる。
風がメギドフレイムを吹き飛ばし、獲物を猛烈に回転させながら地面に叩き落とした。
獅子状の頭が砕け飛び、今度こそキマイラは動かなくなった…

天地丸「すまねぇ、兄貴…」
地張衆「おお、〝飛龍の彩蔵〟殿ではござらんか」

森の茂みから、赤い忍装束に身を包む長身の男が姿を見せる。茶色いクセッ毛のザンギリ頭に
鉢巻きを巻き、キリッとした目と引き締まった筋肉を持つ青年である。

彩蔵「らしくねぇなぁ、天地丸。倒したと思った時が一番油断大敵、てね
 …ま、お前のことだから俺が手助けしなくても何とかできたろうがなハハハ」
天地丸「フッ…まだまだ兄貴にはかなわないさ」
彩蔵「ぷ。おいおい、餓鬼の頃から面倒見てやった俺をからかうんじゃない。
 フフフ…兄貴か。今ではお前のほうがずっと強いのに可笑しなもんだぜ」
天地丸「おかしくなんかないぜ…兄貴は兄貴さ。俺がそう呼べるのは、あんただけだ」
彩蔵「やれやれ、厄介な弟を持っちまったもんだ……ありがとよ」

紺と赤という、対照的な忍装束に身を包んだ二人の会話には、長い戦いを共に潜り抜けて
来たことを伺わせる親しみを込めた間柄が感じられる。
周りにいる地張衆には、誰一人として言葉を挿む者はいなかった。

3

○天地丸→地張衆を率いて里周辺に現れる妖魔、及び時空クレバスから現れる
 正体不明の魔物を殲滅する。
○飛龍の彩蔵→キマイラを忍術で倒す。旅から戻り、各地の異変を伝える。
○地張衆→天地丸や彩蔵と共に妖魔と戦っている。
●アーリマン→睨む間もなく、天地丸に倒される。
●ボム→自爆を使う前に天地丸に倒される。
●キマイラ→彩蔵に倒される。


【今回の新規登場】
○天地丸=魔封童子(鬼忍降魔録ONI、ONI2隠忍伝説、ONI4鬼神の血族、ONI5隠忍を継ぐ者)
 不思議な運命に導かれ、戦いにくれる日々を定められた隠忍。隠忍とは人と平和を望む妖魔との間に
 生まれた者達の末裔で、天地丸の体には鬼族の血が流れているため、鬼神・魔封童子に〝転身〟できる。
 父親は慈空童子といい、善き心を持つ妖魔と人間が暮らす隠れ里で天地丸を授かったが、隠忍を恐れる人間たちや彼等を裏切り者として憎む妖魔たちの手により隠れ里を襲撃される。(生き残った一部の者達はその後再び隠れ里を作った)その為、赤子の時に彼の手で地張忍軍頭領・詠輪斎に託され育てられる。慈空は妖魔たちに裏切り者として殺害され、地張の里もある日頭領からの密命で里を出ていた天地丸と彩蔵を残して壊滅させられる。その時瀕死の詠輪斎から己の出生について明かされ、体に流れる鬼神の血に目覚めて父と詠輪斎の意志を継ぎ、悪しき妖魔の首領・金毛九尾の狐=姐姫を単身で討ち滅ぼした。
 その後の永きに渡る戦いで同じ血をひく仲間たちと出会い、共に多くの邪神を討ち倒す。生き延びていた地張衆を集め地張の里を再建、里に生きる者たちから〝最強の男〟と呼ばれるまでに成長した。
 魔封童子は〝不可思議なる力を奮いて一切の邪悪を浄化せし伝説の鬼神〟として人々に語り継がれている。
 
○飛龍の彩蔵(鬼忍降魔録ONI、ONI2隠忍伝説、ONI4鬼神の血族、ONI5隠忍を継ぐ者)
 冷静沈着で凄腕の忍者。生来の気の優しさのため、非情になりきれず「落ちこぼれ」と言われていた
 天地丸にとって少年時代からの良き理解者であり、頼れる兄貴分であった。地張の里壊滅後も影ながら天地丸を助け、心の支えとなっている。実の弟のように思っている天地丸が、彼と同じ隠忍の血を引く仲間と共に幾多の死闘を経験し、今や立派な忍に成長したことは心から喜んでいる一方、一抹の寂しさを感じて複雑な気持ちらしい。現在も地張衆の誰からも一目置かれる存在である。

○地張衆(ONI4鬼神の血族~)
 妖魔の襲撃で滅んだと思われた地張忍軍だが、僅かに生き延びていた者達もいた。
 彼等はその技を子弟に授け、次第に集結して天地丸たちと共に戦い彼等をサポートするようになる。
 やがて地張の里を再建、亡き詠輪斎の意志を継ぎ後世に伝えていくこととなる。
 
●キマイラ(FFシリーズ)
 鷲・牛・獅子という三つの頭部に蛇の尾を持つ、合成モンスター。
 牛の部位は「突撃」、獅子の部位は「メギドフレイム」、鷲の部位は「アクアブレス」を使う。
 さらに尾の蛇は「サンダラ」「サンダガ」を唱えることも。攻撃力、体力、魔力ともに高い戦力
 を誇る怪物。尚、同じ種族でも登場作品によって使用する能力が異なっている。

●アーリマン(FFシリーズ)
一つ目の頭に蝙蝠が合体したような姿のモンスター。
「にらみ」で相手を混乱状態にしてくる。同族にフロートアイやデスフロートなどがいる。

●ボム(FFシリーズ)
浮遊する火の玉のような姿をしたモンスター。打撃を受けるごとに体を膨張させ、限界に
達すると相手を巻き込んで「自爆」する特性を持つ。中途半端な攻撃は厳禁。
炎が意志を持ったかの如き存在であるため、氷属性が弱点となる。
このボムが多数集まってできているマザーボムなども存在。


『乱世に生まれし異形の仔らよ』-1

作者・シャドームーン

4

飛龍の彩蔵はここしばらく里を離れ、妖魔退治をしながら各地を旅していた。
その彩蔵の報告によれば、空間の歪は妖魔たちが集まり易い海辺や山中といった瘴気が漂う
場所に限らず、近頃では都の周辺でも目撃例があること、さらには死んだはずの人間が生前の
姿のままで蘇るという奇妙な事件が各地で相次いでいるという…
しかしそんな怪奇現象の数々も、この国に生きる多くの人々の関心を引いているわけではない。
否、関心を持つ余裕などないと言うべきか…今やそれどころではなかったのである。


天地丸「死者が突然黄泉帰る、か…」
彩蔵「心当たりがありそうだな」

天地丸「ああ。実は近頃、墓地から死体が盗まれる事件が多発してるんだ。
 だけどあれは…まるで死人が自分で墓から抜け出たような跡だったぜ」
彩蔵「死体が墓の中で息を吹き返したようだと言いたいんだろ?
 あながち外れちゃいないと思うぜ。高野丸と秘女乃のとこにも、
 そういう相談や依頼がえらく増えたと言っていたからなぁ」

高野丸は天地丸の従兄弟にあたり、日本有数の退魔師としてその名が
知られている人物である。現在は元仲間の秘女乃と結婚し、京の都で
一緒に暮らしている。彼等もまた、妖魔の血を引く『隠忍』であった――

天地丸「なんだ兄貴、高野丸たちに会って来たのかい? みんな…元気かな」
彩蔵「ああ、都に寄ったついでにな。さっき言った通り、退魔稼業が大忙しらしい。
 ま、商売繁盛でなによりってとこだがあそこは子供が生まれたばかりだろう?
 秘女乃は占いの依頼人がわんさか押しかけててんてこまいだし、夫の高野丸は
 妖魔絡みの事件であの怪異目付同心に呼ばれてろくに家に帰れんそうだ。
 おかげで様子見に寄っただけなのに、俺が散々女房殿の愚痴を聞かされたよ」

天地丸「はははは…そりゃ災難だったな。俺も前に同じ目に遭った…。
 でも二人とも息災みたいで安心したよ。他に何か言ってなかったかい?」
彩蔵「…ん。例の化物共が出て来る“穴”だが…あれはひょっとすると“地獄門”って
 やつと関係があるかもしれんと高野丸が言っていたが―」

『地獄門』――人の世が乱れ、大地と空に成仏できぬ憎悪の魂が満ちる時、
開くと言われている魔界の扉。それが一度開かれれば、封印された全ての妖魔が
力を取り戻し、闇と共にありとあらゆる災いがこの世を覆い尽くすという………
過去、この地獄門を開いて地上支配を目論んだ妖魔の首魁は、それを阻止せん
とする天地丸らの戦いで斃されて来た。
彼等を知る僅かな人々は生きる希望が湧き、この世が魔から救われたことを喜んだ。
しかし時は乱世――歴史の影で守られた平和を嘲笑うように、人間界の争いは続く。
大地にはまだ、戦で流れる夥しい血の匂いが染み込んでいた……

5

天地丸「地獄門はよほど強大な力を持つ存在がいなければ開かないはず……
 だからこそ俺達は、天輪乗王や天津甕星の野望を命がけで防いで来た。
 ……黄泉帰り……まさか、奴等までが復活を…!?」
彩蔵「あまり考えたくはないが、可能性が無いとは言えんな。事実、“穴”の向こうから
 あの化物共が現れるようになってから、しばらくおとなしくしてた妖魔共の動きが活発
 になって来ている。あっちこっちで、妙な仏が増えてる…引き裂かれた仏に内臓を
 ぐちゃぐちゃに潰された仏…ありゃ戦でやられた死体じゃない。

 お前のほうも充分気をつけてくれってさ」
 
緋影「―――…今時まともに死ねるやつのほうが珍しいさ…
 人間同士の戦が無くならねぇ限り、それを養分にしてる連中におとなしく
 してろってほうが無理なのかもな」

二人を囲んで話を聞いていた地張衆の間から、片目を布で覆った若い男が声を挟んだ。
短髪に蒼い忍装束、表情に影があるが天地丸とよく似た風貌の青年である。

彩蔵「ん……? 新顔だな」
天地丸「緋影、来ていたのか。紹介するよ兄貴、一月程前から里に住んでる男だ。
 彼にも連れ合いがいてな…いろいろ理由ありらしいが…彼も妖魔と戦う“仲間”さ」
彩蔵「ぶははは! 頭領が生きてた頃なら、勝手に他流の者を入れたら大目玉じゃ
 すまねぇところだぞ天地丸。いいさ…お前が仲間と認めたんなら、信用できる奴
 なんだろう。俺は飛龍の彩蔵ってもんだ、よろしくな緋影っての!」

緋影「あんたが天地丸の兄貴分か…よろしく。此処の人達には俺も妖も随分世話になった…
 とても感謝している。俺で役に立てることがあったら遠慮無く言ってくれ」
彩蔵「兄貴分…兄貴分ね…今じゃとっくに弟のほうが(ブツブツ)」
緋影「?」
天地丸「…(くすっ)」
彩蔵「あ~いやなんだ、その…妖っていうのが女房殿か? 羨ましいねぇ、全く」
緋影「ああ。正式に祝言をあげたわけじゃないんだが…俺は妖を守るために生きる。
 俺は草だ…とっくに死んでてもおかしくない身で、こうして無様でも生きていられる
 のは――妖と、あやのおかげだと思っている…」

彩蔵「なぁんだよ、だったら里で祝言あげて祝ってやろうじゃないか!」
天地丸「フッ…そうだな。それがいい」
緋影「え、ええっ…!?」
彩蔵「ここんとこ後味悪い事件ばかり見て来たからな…こんな時代だからこそ、
 祝える時に祝ってやりたいんだよ。なぁ、天地丸」
天地丸「兄貴の言う通りだ。緋影、盛大…とまではいかないかもしれないが、
 妖さんもきっと喜ぶはずだ…やらせてくれ、いいだろう?」

緋影「…………ありがとう」

彩蔵「よっしゃ、決まりだな! そうと決まれば里に戻って準備を…――」


<グオオオォ―――ンッ>


当然地鳴りが森を揺さ振り、鼓膜が破れるような轟音…いや、獣のような咆哮が辺りに轟く。
地張の里から立ち上る煙…そして微かに聞こえる悲鳴と絶叫。


緋影「里の方角…妖っ!」
彩蔵「なんだ…空に裂け目が!?」

地張衆「天地丸殿ォー! 大変でござる、さ…里に巨大な…!!」

天地丸「急いで戻ろう、兄貴!!」

疾風のような速さですでに駆け出していた緋影に続き、天地丸、彩蔵、地張衆が後を追う。

6

***地張の里***


それは“穴”というより、まさに空にできた亀裂である。
その亀裂を巨大な獣の腕が抉じ開け、「向こう側」から
山程もある巨体を持つ化け物が出現した。

ゴーマ「ゴルルルル…ガァアアア!!」

巨大な獣――『巨獣』と呼ぶに相応しいその怪物は、
口を広げて足元の家屋に火炎を吹く。
静かな地張の里は、あっという間に阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。

加代「皆さん、こちらです!妖さんは子供たちをお願いします!」
妖「さぁみんな!姉ちゃんたちにしっかりつかまって…!」

里で唯一のくノ一、加代と妖は地張衆の妻と子供たちを地下の隠れ家に誘導する。
その部屋には万一に備えて、並の妖魔では侵入できない結界が施されていた。

妖「くっ、妖魔め…!(…緋影…)」


◇ ◇ ◇



地張衆「怯むなーッ 里を守れいッ!!…ぬう!?」
カラス天狗「ケェェェェーッ!」

里を守っていた地張衆が懸命に応戦する最中、空中から無数の人影が
里に襲いかかる。修験者を模した服装に下駄を履き、鴉のような嘴と羽を
持つ妖魔…伝承にある“烏天狗”とそっくりな風貌だが、妖魔の烏天狗とは違い、
人間の忍に近い身のこなしで毒矢を吹き、忍刀で斬りかかって来るのである。
地張衆の誰もが異質な手ごたえを感じながらも撃退しているが、なんといっても
多勢に無勢であり劣勢は明らかであった。

毒斎「ふふふふ…こんなちっぽけな里に、伝説の鬼神がいるというのか。
 ふん、手ごたえが無さ過ぎてつまらぬわ。妖魔巨獣ゴーマよ、一気に叩き潰してしまえ!」
ゴーマ「ゴアァアー!!」

烏天狗に酷似した一団を指揮している、黒光りする鬼面を着けた白装束の男。
一団の頭と見られるその男が号令すると共に、再び巨獣の口が開かれ火炎が発射される。
無慈悲にも、その火炎が配下たち諸共地張衆に炸裂しようとした瞬間。
炎は一点に収束され、それ以上拡散しないまま人の形となっていく……全ての悪しき力を絶つ
『日光剣』を盾のように構えた天地丸が、全身に炎を纏っているかのようにそこに立っていた。

地張衆「天地丸殿!」
懸命に応戦していた地張の里に生きる男たちから、一成に歓声が上がる。

毒斎「(あの眩いばかりの光を放つ刀…あれが磁光真空剣やパコと並ぶ、
 外宇宙から齎されし秘宝か…)」

彩蔵「よし、天地丸に続け! 地張忍法〝双飛龍〟!」
続いて見回りに出ていた地張衆を引き連れた彩蔵が、燃え盛るクナイを飛ばした。
矢のように放たれた二本のクナイが烏天狗を切り裂いていく。
駆け付けた増援の地張衆も素早く散開し、忍術と剣術を駆使して侵入者共の撃滅に向かう。

緋影「妖ーーー! 無事かーーっ!?」
中でも緋影の奮戦ぶりは凄まじく、超人的な身のこなしで次々と手裏剣を繰り出し、
剣で烏天狗を切り刻んでいく。辺りには至る所で血飛沫と羽が飛び交っていた。

7

日光剣の一振りで纏わり付く炎を払った天地丸が、
屋根の上から見下ろしている鬼面の男を睨む。

天地丸「不意を付いたつもりだろうが残念だったな。
 地張の里はお前達が思う程甘くはない!
 貴様は何者だ…その巨大な化物は貴様が連れて来たものか!?」

毒斎「ククク…そうだ。こいつは“ゴーマ”俺様が妖術で誕生させたものに、
 少しばかり改造を施して強化した妖魔巨獣よ。
 俺は妖魔一族の頭領、鬼忍・毒斎!!」

天地丸「妖魔一族頭領…ではお前が妖魔たちを操る新しい首領か?」
毒斎「フッ、我々はお前達の知る“妖魔”ではない。人にして人を捨てた忍よ」
天地丸「……?」
毒斎「ふふふふ…だが今はその“妖魔”とも手を組んでおるがな。――ぬぅん!!」
天地丸「――はぁ!!」

毒斎は掌から鬼火を飛ばしたが、天地丸は日光剣でそれを素早く弾き飛ばした。

毒斎「ふん、その剣。それに先程見せた芸当といい…若僧貴様、唯の人間ではないな」

???「そやつを侮ってはなりませぬぞ毒斎殿―――
 その男こそは我ら妖魔の血が流れていながら…人間共に加勢して我らに敵対する
 裏切り者の末裔、“隠忍”の者に他なりませぬ」

天地丸「貴様等は…!!」
 
燃える里の中から、黒い異形の影が二体揺らめきながら実体化していく。
そしてそれは、天地丸が見覚えがある形、聞き覚えのある声となってはっきり姿を現した!

8

○天地丸→毒斎と巨獣ゴーマに挑む
○彩蔵→地張衆と共にカラス天狗軍を迎え撃つ
○緋影→恋人・妖の身を案じながら彩蔵らと一緒に戦う
○加代→地下の隠れ家に住民を避難させる
○妖→加代と共に住民を避難させる
●毒斎→妖魔巨獣を引き連れ地張の里を襲撃
●ゴーマ→地張の里で暴れまわる
●カラス天狗→地張衆と交戦

【今回の新規登場】
○緋影(ひかげ)(楠桂原作―妖魔―)
元は武田家に代々仕える忍の一人。同じ里で兄弟同然に育った親友・魔狼が、
ある日突然自分に傷を負わせて里から消えたため、その行方を探すために抜け忍となる。
魔狼の行方を追ううちに、何故か幾度も凶悪な妖魔共と遭遇しこれを悉く倒していく。
やがて再会した魔狼には出生に纏わる大きな秘密があり、哀しい結末を迎えることとなる。
旅の途中でなりゆきから同行していた他流派の抜け忍・妖とやがて心を通わせ恋仲となり、
二人で静かに暮らせる場所を求めて流離ううちに、この地張の里へ流れ着いた。

○妖(あや)(楠桂原作―妖魔―)
緋影が旅の途中で愛した女性「綾」と同じ名を持つくノ一。男勝りな性格で忍としての腕前も
男以上に優れている。「普通の女に戻りたい」という理由で里を抜け出し、仲間に抜け忍として
命を狙われているところ、偶然居合わせた緋影が巻き込まれる形になり、以来彼の旅に同行
している。最終決戦で顔の左頬に、かつて緋影が愛した女性「綾」と同じ大きな傷を負うが、
それでも自分を愛してくれた緋影と共に、何処かで静かに生きていこうと誓った。

○加代(鬼忍降魔録ONI)
旧地張の里からの生き残りのくノ一。天地丸の協力者として妖魔の巣食う平安京に
単独で潜入、悪しき妖魔の首領・姐姫討伐に大きく貢献した女性。
 
●鬼忍・毒斎(世界忍者戦ジライヤ)
妖魔一族頭領にして、Gショッカー巨獣軍所属の大忍法者。
かつては戸隠流忍法三十四代宗家・山地哲山の同門であった男。
私利私欲に取り憑かれて戸隠流が代々守る秘宝パコを我がものにせんと、
その在処が記されたボードの半分を奪い逃走。自ら鬼面を被り、
“妖魔一族”なる闇の忍者集団を興した。パコを巡って磁雷矢と激戦を
繰り広げたが野望虚しく敗れる。Gショッカーの誇る高度な科学力を用いて
この時代に「侵入」し、ある目的達成のために本物の妖魔と手を結んで動いている。

●妖魔巨獣ゴーマ・強化体(世界忍者戦ジライヤ)
鬼忍・毒斎が妖魔一族の秘術で生み出した巨大魔獣。
槍を振り回し、火炎を吹くそのパワーは強力。

磁雷矢と合身するパコの守護神・磁雷神と戦い倒された。
この固体はある人物に改造を施され、パワーアップしている。

●鳥忍・カラス天狗(世界忍者戦ジライヤ)
妖魔一族の下忍でその名の通り、烏天狗に似た風貌をしており自在に
空中を泳ぐ。主に三人一組で行動し、戦闘はもちろん諜報活動から誘拐、
接客までこなす。口から毒矢を吹き、一本歯の下駄も武器として用いる。